(モブ視点)
(※モブの設定が濃い)






私には、使命がある。

「転校してきた藻部村さんだ、皆ちゃんと親切にしてやってな」

フランクな調子であっけらかんと言い放った、私の隣の男性教師。にこやかに言う爽やか系の男性であるが、私はこの男に興味はない。
一つだけ気になる部分を挙げるとするならば、頭部である。この男、頭部が少し、いや本当に少し、ほんのちょうっと寂しさを訴え始めているのだ。しかし何も言わずにいるべきであろう。中学二年生とはもう大人の端くれ、空気読める、である。

はあいと元気な、または野太い野郎の声が響き、まあ私は不快な気分に陥ったが顔には出さない。なぜなら中学二年生、大人の端くれだからだ。私かっこいい。

「んで、藻部村の席はあそこ、窓の側の端な。神童、手、挙げて」
「はい」

教師の視線を受けて私は歩き出す。ずっと手を挙げたままの男子生徒はご苦労な事である。私が動き出さずにいてその腕がプルプル震え出すのを見てみたい気がしたが、私には、使命がある。とにかく放課後までを何の問題もなく過ごす事が優先なのである。神童この野郎を虐めている場合ではないのである。

席に腰掛けると、その神童この野郎がにこやかに声をかけてきた。

「藻部村さん、俺は神童と言うんだ。よろしく」
「藻部村ちょっと忙しいのでよろしく出来るかどうかは…」
「はっ?」
「程々によろしくお願いします」

いけない、憎しみが溢れてしまった。私は曖昧に誤魔化しておいたが、神童はどうやら図太い神経をしていないようだった。微妙な顔をしている。

それにしても、私には使命があるというのに、なかなかそれは達成できないではないか。何で私は中学二年生なんだろう、神よ、哀れな藻部村にお答え下さい。
脳裏に愛しのあの子の事を思い浮かべ苦悶する。しかし、私の想像力のなんと豊かな事よ。愛しのあの子は脳裏でイタズラな笑みを浮かべた。愛らしい。

「うふふ」
「!?」

何か隣の席の天パが肩を揺らしていたが藻部村はそんな事知らないのである。







さて私こと藻部村は重大な使命の為に、昨晩はあの子の次に愛しい睡眠と涙ながらの別れを告げてある作業を行っていた。おかげで謎のテンションなるものを深夜に迎え入れたが、私に付き合った司令官Hは「大丈夫、君はいつも人並みはずれたテンションと言動だ」と励ましを与えてくれたので、まあ構わないだろう。
司令官Hの頭に渾身の力を込めて頭突きをした事は私の一世一代の秘密である。奴の頭が予想以上に固くて涙をのんだ事も一世一代の秘密である。

とにかくどうして私が夜を越してとある作業を行っていたかというと、まあ、人の顔を覚えるのが不得意だったからである。

使命の為には愛しのあの子に近付く者共全ての情報を所有していなければならないだろう。
しかし基本的に人の顔を覚えるのが不得意な私には酷な作業であった。神童この野郎だってなかなか覚えられずに、最終的には私に覚えてもらえないこいつが悪いのだという事実に気付いたのだ。あの子とそこまで接点はないだろう彼に、この野郎と思ってしまうのはそのせいだ。
いやでもあの子と同じ部活なだけで十分な接点である。神童この野郎で構わない。

しかし私の琴線に触れてしまったあの男は、もう二度と私と司令官Hの陰湿な手口からは逃れられないのである。

「アノヤロウ」
「!?」
「コロス」
「も、……藻部村さん…!?」

何だ神童この野郎、どもっても可愛くないぞ。どもって可愛いのはあの子だけだぞ。

「今移動教室なんだが、何がそんなに君の怒りに触れたんだろう…廊下だろうか……」
「いえ、そんなに廊下に執着持ってないですね」
「そ、そうか…」










ついに、私の使命の為に動く時がきた。
放課後である。

目を閉じてフッと笑ってみせる。司令官Hの手下、とある厨二をこじらせた男の受け売りである。なんとなく雰囲気に従っただけであって、私が厨二な訳ではない。大人の端くれ中学二年生ではあるが、厨二ではない。ここは非常に重要な部分である。

「神童さん」
「えっあっな、何だ藻部村さん」

何どもってんだこいつ。しかし私は挙動不審な彼に構っている暇はない。

「サッカー部にすごい可愛い生意気なんだけど愛らしいとんでもなく優秀な後輩って居るよね」
「えっ断定…じゃなくてえっと、かわい…あ、あい…!?」
「その子と仲良い人に今日何かあっても、それ藻部村のせいじゃないからね、そこの所よろしくしたいからね、覚えておいてね」
「なななな何をする気なんだ藻部村さんきみは」
「そんなにどもってよく舌噛まないね、尊敬するよ」

まあお世辞だが。私そんなどもる事もないので構わないが。社交辞令という奴である。
しかし神童この野郎は困惑した表情のままである。せっかく褒めたというのに何ていう態度だろうか、こんな男が先輩では、あの子は礼儀というのを学べないではないか。由々しき事態である。

とにもかくにも私は屋上へ向かわねばならない。
愛しのあの子には秘密裏に今回の使命を与えられたのだ。双眼鏡を胸元に、私はできうる限りのニヒルな笑みを浮かべた。

「お日さま園マサキの貞操を守り隊代表として、藻部村は霧野ツインテール女顔コンチクショウ蘭丸を倒す使命があるんだ。止めないでくれ、神童さん」

まあ今日は様子見である。司令官Hへの適切な報告が必要であるから、私は愛しのあの子―――マサキと必要以上に接触する人間を見抜かなければならない。とりあえず恋人とか抜かしてやがる霧野ツインテール女顔コンチクショウ蘭丸は初期からブラックリスト入りである。


呆然とする神童この野郎に軽く笑みをみせて屋上へ足を向ける最中―――私は思った。

やべ、なんたら茜さんにマサキの写真貰うって交渉すんの忘れてた。







あ、どうもこんにちは。モブです。
(120402)
すみません。
Hはまあ、財閥社長という事にしておいて下さい。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -