女の子ってずるいもんだよ。

痛かったり辛かったり悲しかったりしたら、泣いていいの。まあ年相応の泣き方じゃないと駄目だけどね。

あと友達同士がずうっと仲良くできるの。喧嘩しないんだよ。だって嫌いな所や気に入らない所はね、その子が居ない時に吐き出すの。愚痴言うんだよ、陰口悪口。

他にもいっぱい。女の子ってすっごくずるいもんだよ。

「…何を言いたいんだ」

剣城くんが眉間にシワを寄せて俺を見ていた。にししと笑って膝歩きして近寄ると、目を逸らされる。スカート短いから太もも見えちゃう?でも見えるの承知で短いんだから、別に構わないんだけどな。あ、剣城くん限定ね。

屋上のフェンスに座りながらもたれかかってる剣城くんはかっこいい。なかなかアンニュイ。アンニュイって意味あんま分かんないけど。でもその姿は本当にかっこよくて、きゅーんとなっちゃうもんだから、俺はここで剣城くんが男の子なのを意識してるって事だ。

「男の子だって泣いていいじゃんって思って」

じっと剣城くんを見ながら言うと、逸らされていた視線が俺の顔を見つめ返す。そうして少しの沈黙のあと、小さく口が開かれる。

「…俺に泣いて欲しいのか」
「……うん」
「…」
「何ていうかさ、男の子だって泣くでしょ。そこに女が居ないだけでしょ。でも俺そういうの分かるけど、剣城くんの辛い時に知らん顔して笑ってんの、やだ」

プライドとか、そういうの、大事にしてやりたいけどさ。
俺は剣城くんと共有したいものがいっぱいある。これって女だから思う事なのかな。
剣城くんの横に座り込んでフェンスの向こうを見る。隣からの視線はとりあえず無視して、校庭を見下ろす。天馬くんたちがサッカーしているのを見て、少し面白くなった。昼休みってついさっき始まったばかりなのに。食べるの早いな。

「好きな奴には余計に見せたくない」
「俺の事?」

剣城くんがしかめっ面で黙ってしまったから、沈黙は肯定って事かなと考えて何だか気恥ずかしくなった。ちょっと自意識過剰っぽいけど。

「女子だってそうだろ」

風がうざったい。
俺の髪はまとまりにくくてハネてて、そんでちょっともさってしてるから、実を言うとあんまり風には当たりたくない。手入れは面倒だけど、そういうの、気にする。なんたってずるい女の子だからだ。
それでも懲りずに屋上に来るのは、剣城くんがここに居るせいだ。

「涙は女の武器っていうけど」
「泣き顔が綺麗な奴なんて居ないだろ」
「うわ剣城くんばっさり言っちゃうね」
「狩屋も」

汚いってか。おい。

「俺の前で泣きたいか」
「……泣かせたい?」

ゆうっくりと口元を上げて、目を細めてやった。剣城くんの表情は変わらない。つまらないなあ、何でだろ、スカートの短さにはどぎまぎしちゃうんだろ?こうやって挑発した時に限って、剣城くん、冷静になっちゃうんだよなあ。
そう思ってたらいつの間にかじとっと睨み付けていたらしくて、そこでようやく剣城くんが笑った。鼻でだけど。

「お前、俺に泣いて欲しいんだよな」
「ん?まあ」

そうだよ、と言おうとして、風に踊らされていた髪の毛が口の中に入ってきた。ちょっと。
でもそんな俺を無視して剣城くんは続けた。ちょっと笑って。

ああその顔、やさしいよね。

「俺が狩屋を泣かせたい理由も、同じだ」

―――剣城くんの辛い時に知らん顔して笑ってんの、やだ。

「あ」

思わず声が出てから、恥ずかしくなって俯く。まさか自分に返ってくるなんて、思ってなかった。
しかも、なんだ、これ。うわあ。口説かれてるって感じだわこれ、いやもう、なんていうの、付き合って、は、いるんだけど。

「お前は女子らしくない所もある」
「…なにそれ」
「俺以外の前では、泣こうとするなよ」


風に乗って、校庭から楽しげな声が響いていた。







きみの涙を待っている

(120318)
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