お兄ちゃんはかっこいい。
ゴーグルとかマントとか、初めに見た時はどうかなー、って、こっそり思ってたんだけど、今はそれもぴったり似合ってる上で、かっこいいなぁ、って感じる。言った事はないんだけど。マントを片手で払う動作とかしてると、おお、って思う。ゴーグルがお日さまに反射して、きら、と光る時とか、あと、そのゴーグル越しのお兄ちゃんの目とか。もう誰にでもいいから、お兄ちゃんってかっこいいんだよーって、時々、無性に自慢したくなる。
それでも言わないのは、それがわたしだけの特別な秘密にしていたいから。

お兄ちゃんは優しい。
わたしの頭を撫でてくれたり、わたしの話を聞いてくれたり。大丈夫だぞ、とか、励ましてくれたり。わたしに対しての優しさしか、あまり目に入ってこないのは、ちょっとした独占欲からだけど。キャプテンとか、豪炎寺さんとか、イナズマジャパンの皆にも、優しい。でも優しいって言うよりは、誠実、って感じかな。真剣、真摯。うまく言葉が出ないけど、まあとにかく、お兄ちゃんは優しい。

わたしとお兄ちゃんは、いたって普通の兄妹。確かに苗字は違って、帰る家も違うけど(でも今はライオコット島の宿福、同じ屋根の下で生活している)、他の兄妹と何ら変わりない、でも(同年代の)他の兄妹より仲のいい、ただの兄妹。
思春期にはちょっと冷たい関係になる筈のものが、離れてた時期に甘えられなかったから、仲良くいられるのかも。それでも、離れてた事を悲劇みたいに言いふらしたくないし、今の関係が幸せでたまらないから、今の鬼道有人と音無春奈は、ただの、仲のいい兄妹。
ちょっと自慢してもいいと思うくらい、仲はいい。と、わたしは思ってる。

FFIの練習の、休憩の間の雑談とかで、お兄ちゃんがからかわれていたのを見た事がある。お兄ちゃんって大体冷静っていうか、しっかりしてるから、そういうのは珍しいなーって思いながら、こっそり聞き耳を立てていた。
その時の内容が、「鬼道ってシスコンだよなー」っていう。
そうかなぁ。そうかも。うん。確かに。
心の中で相槌を打って、それから何にも聞いてない振りして、他の人たちの所にボトルを届けに行った。どういう風に絡めばいいのか分かんなかったし、何ていうか、ちょっと気恥ずかしかったし。その後、ボトル片手に小暮君にからかわれた。顔赤いぞーって。

でもね。
お兄ちゃんだけじゃなくて。わたしも、ブラコンかもしれないよなぁ、って。

きっとブラコンだと思う。
だってわたしは本当にお兄ちゃんが好きだし、かっこいいーって思うし、優しいから甘えたくなっちゃうし、お兄ちゃんがシスコンって言われた時も、本当の本当は、嬉しかったり。心から、尊敬っていうか、憧れというか。凄いなぁ、偉いなぁ、って思う。
これって多分、ブラコンの証じゃないかしら。って。

例えばね。いつかの話。同じクラスの友達らが、兄とか、弟とか、姉とか妹とか。交換してあげたいくらいだよーって話をしてた。その時は、わたしとお兄ちゃんは和解どころか、決裂さえしてなかったけど。つまりお兄ちゃんに再会する前。あの時は、そういう話題にどう反応したらいいか分かんなかったけど。
今思うと。
わたしは、絶っ対、交換なんてしたくない。
あーんな優しいお兄ちゃんが他の子のお兄ちゃんになっちゃったら、一体どうなる事か!
こう思うあたりで結構重症なブラコンだというのは理解してる。だからやっぱり、わたしはブラコン、ブラザーコンプッレクスである筈。あんまり表に出ないだけで。

ところで。

どうしてこんな話が頭の中で展開されているか、っていうと。

何というか、そういう、甘えたいなーって思っちゃってるのだ。わたしってば。
FFIに向けて、熱心に練習をするお兄ちゃん、というかイナズマジャパンの皆を応援して、支援して、わたしもそういう区切りはつけている。練習中にお兄ちゃんお兄ちゃん言ったって、さすがの優しい鬼道有人でも、困ってしまう。というか、そんな人目も憚らず、っていうのは恥ずかしいし。
だからちょっとだけ、ちょーっとだけ、練習の後。朝食前の、昼食前の、夕食前の、眠る前の、自由時間とかで話せたらいいな、って思うんだけど。
これがなかなか話せない。
サッカーに夢中なのだ。
キャプテンや豪炎寺さんと残ってサッカーの練習が止まらなかったり、佐久間さんとか、最近仲良くなった(?)不動さんと、ゲームメイクについて話してたり(とはいっても不動さんって本当に刺々しい。この前なんかわたしの事を「おい鬼道妹」だなんて!そうなんだけど!まあ、サッカーに関してなら真剣なので、お兄ちゃんはそこらについては寛容になったみたい)。まあ他の人たちともだけど、キャプテンや豪炎寺さんと、本当にずっと、サッカーの練習ばっかり。そりゃあ、ちょっとは気にかけてくれるけど。

構ってよー。と、思っちゃったのだ。
恥ずかしい事に、ハイ。

だから今、サッカーの練習の中での、ちょっとした休憩時間。
お兄ちゃんの背中を、じぃっと、見つめてる。


休憩中なのに、お兄ちゃんったら、座り込んで不動さんと熱心に話してる。何をって、手元のサッカーフィールドの描かれた紙から分かる通り、ゲームメイク。ちょっと口論気味。ゲームメイクの話になると、お兄ちゃんも不動さんも色々と殴り捨ててるよね。クールな雰囲気とかどこかに飛んでいっちゃってる。
しかも2人とも、ドリンクもタオルも持ってないし!もう!どれだけサッカーサッカー!わたしもサッカー大好きだけど!熱中症で倒れたらどうするの!
うぅー、と思わず唸る。

「お、音無さん?」
「はっ」

びくり、と肩が震えて、それから振り向くと、心配そうにわたしを見てる立向居くん。「どうかした…?」なんて、気遣ってくれたのに、ちょっと申し訳なくなる。ただプリプリ怒ってただけなんです…しかもちょっと拗ねてるだけで…。なんて言える訳もなく、「え、えへへー」なんて誤魔化してるのが丸分かりな笑みを浮かべる。立向居くんはちょっとキョトン、として、それから誤魔化されてくれて。苦笑いしてから、「そっか」と言ってくれた。ありがたいです。
そこで立向居くんの手に握られてるボトルを見て、お兄ちゃん、ドリンク受け取ったかしら、と思って、もう一度そっちの方を見る。

変化一切なし。

……うぅっ!
思わず握りこぶし。かっ、構ってー!ドリンク飲んでー!
すると、なんと。
念が通じたのか、振り返る。

不動さんが。

「………っ」

ぱっとこぶしを解いた、けど、今の表情とか握りこぶしとか、ああえっとそういうの全部、…きっと、見られた。
かあっと頬が赤くなる。わ、わー。不動さんはあんまり表情を変えずに、ぱちりと瞬き。う、うわー。これって絶対、お兄ちゃんに絡んでる不動さんに嫉妬した甘えたがりの妹って感じ。絶対ばれた。不動さん鋭いし。こういうの絶対、からかってきそう!
ひいいと赤くなってるのか青くなってるのか、自分でも分からない。そしてその瞬間、不動さんの動き。「……ハア」ん?た、溜め息。

「鬼道クン、俺ちょっとドリンク飲んでくる」
「ああ、分かった」

「よっこらしょ」なんて言って立ち上がる不動さん(それちょっとオジサン臭いです)。お兄ちゃんは別段気にした風もなく、未だ視線は地面に縫い付けられたまま。多分。背中から見るに。
えーと。ぽかんとしたまま不動さんを見ても、わたしを眼中にも入れないで、すたすたと歩いていく。えっちょっと待って下さい、ドリンクはそっちじゃないです。頭に浮かんだ言葉は出てこない。不動さんはすたすた。どかり。ベンチに腕を組んで座る(偉そうに)。

え、ええ?
ドリンクじゃないの?思わず首を傾げたその時、ばちり。不動さんがわたしを見た。ぎょっとするわたしに気遣いはなく、不動さんは、くい、と顎で、お兄ちゃんに差し向ける。視線がすっごい、物語ってる。「オラとっとと行け」え、えええ。こ、これは。邪魔しねえから行けって事だよね。やっぱりばれてた!恥ずかしい!しかも何か気遣われた!い、いたたまれない、不動さんに気遣われた…!

しかも、行ける訳ない!もごもごしてると、とんとん、わたしの肩を叩く人。はっ、と思わず固まって、それからぎぎぎーと首を回す。
苦笑する立向居くん。ぜんぶ、みられてた…。
わ、わー……。

「行っておいでよ」
「うぅっ」
「みんな最近気になってて。休憩中なんだし、いいと思うよ」
「みっ」

みんな!!?

ひくり、と頬を動かして、それからぐるり、と首を視線を回す。
するともう、キャプテンに木野先輩に風丸さん小暮君豪炎寺さん佐久間さん壁山君綱海さん吹雪さん基山さんその他諸々………こっ、こっち見、て、る!!
ひいいいい皆にばれてたあああ!顔から火が出るってこういう事!ちょっと目が潤んで、それを見た立向居くんが慌てて手を両手に振る。なんだか…気遣ってくれて本当にありがとう…。わたしはもう放心したい。
すると、立向居くんは息を吸ってから、にこりと笑う。

「大切って思ってるんだから、いい事だと思う。恥ずかしがらなくても、いいと、思うよ」
「……」

思わずちらりとお兄ちゃんを見る。赤いマントに包まれた、お兄ちゃんの、頼りがいのある背中。

もう一度視線をぐるりとすると、ばち、とキャプテンと目が合う。ニッとキャプテンらしい笑顔を向けられ、立てられた親指が何だか面白くなってきて。ぷっと笑って、それから息を吸って。体を丸ごと、お兄ちゃんの背中に向ける。「いってきます!」お兄ちゃんに聞こえない範囲で声を上げて、たっ、と、走り出す。





「おっ兄ちゃん!」
「う、おっ、…春奈!?」

手を伸ばしたマントは、熱が篭っていて、くすりと笑った。





きっと生涯唯一ね

(111023)(120317)
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -