支部から風不

2012/11/05 20:34

不動を見ていると必ず近くに鬼道が居る気がしていた。
思い返せばその感覚はFFIの時につくられたもので、確かにあの時、不動に一番近かったのは鬼道だった。そして今もきっと、不動と本質が似通っているっていうのも、鬼道であると、俺は思う。
FFIの時に和解したあの2人は、フィールド上においても一致していた。互いが互いの思う場所に蹴り上げ、互いの思う所に走って、あいつらは分かり合っていた。試合の時は俺だって必死に動いていたから知らないけど、きっと練習の時と同じように、あいつらは視線を交わしていたんだろう。俺はその当時その事に何も疑問は抱いていなかった気がする。
多分同じ人のもとで過ごしていたからだろう。影山。その人物のもとで、互いに会った事はなくとも、育てられて一緒に過ごして、少しずつ思考が似通っていった。そう言ったのはどちらだっただろう。そうして近くに居るようになってから、似ている、同じような所がいくつもあったように見えた。俺から見たってどちらも頑固で、どちらも理知的で、どちらも。どちらも。あいつらを見ていく程に、ずっと思っていた事だってある。鬼道と不動は、繋がっているんだと。繋がっているという言葉では合わないかもしれない。今ですら俺にはうまく言葉に出来ない、あいつらの間にはそういう何かがあった。磁石、というのか、それも違うような気がする。何だろう。ただあいつらの本質はぴったりと当てはまっているような気がした。互いに。
鬼道は不動を、不動は鬼道を、互いに立ち上がらせて、走らせて、動かしているような。互いが居ないとしおれてしまいそうな。

鬼道と不動が想いあっていると知っても、俺は。ただやっぱりそうだよなあと思っていただけだった。


夜の闇の中で、ぱちぱちと赤が爆ぜている。ざわざわと草木が音を立てているのを、ぼんやりと聞いていた。
「風丸」
振り返ると不動が俺の頭をぺしんと叩いた。
「いきなり何だよ…」
「意識飛ばしてんじゃねえよ、ほら灰汁取れ」
俺を軽く叩いた手がそのまま鍋の中を指差す。野菜の周りにうっすらと黄色が混じった白い灰汁。円堂が取ってきた野菜、というか雑草というか植物。でも吹雪が食べれると言ったから大丈夫なはずだ。きっと。眉を寄せながら手を動かした。ゴッドエデン潜入に関しての心配事は常識人らしき奴が俺と不動しか居ない事だった。自分を入れてしまうあたりが悲しい所。適当に衣類と簡易食料を用意したのが俺で、調理器具は不動に任せて訪れた。配慮は間違っていなかった。けどまあ、嬉しい事に吹雪がそういう知識に長けていたのだ。「まあ熊殺しと言うからには山篭りも必須だよね」、なんてくすりと笑っていたあの時に感じた思いは無い事にしようと思う。そして多分この野菜(仮)も食べられるだろう。
「あいつら迷ってないかな」
「ここ来て何日経ったと思ってんだよ。大丈夫だろ」
円堂と壁山は薪拾い係に、吹雪は水汲み、俺たちは調理係。ある意味必然的な選択だったろうと思うけれど、円堂と壁山が迷わないかは、いつも心配になる。大丈夫だろうか。初日はとりあえず全員で行動したけど、はたしてあいつらが覚えたのか。うーん、と唸る俺を見て、ちょっと不動が困った顔をした。あ、かわいい。なんて思ってしまった俺を見抜けるはずもなく、不動は溜め息を吐いた。
「迎えに行ってきたら」
「あ、…いや、いいさ。飯の方はどうだ」
「炊けた」
そう言いながら不動は俺の手元、鍋を見てちょっと微笑んだ。俺自身、もうこれは放っておいて煮込んでおけばいいだろうと思っていたから、蓋をして近くに座り込んだ。この島の夜空は明るい。初めて来た時も、全員で星にはしゃいで、ちょっとしてから俺と不動は我に返って恥ずかしい思いをした。何しにきたんだ。潜入調査だって。修学旅行じゃないんだから。っていうかもう大人なんだから。

俺と不動は付き合っていた。いつからかは覚えてない。そういう所は2人ともずぼらだったので、数えてもいなかった。けれど数えなくても分かる以上の年は付き合っていた。惰性というような気もして、それでも俺は不動を好きだし、不動も俺を好きだ。不動と居ると俺は少しだらしなくなるかもしれない。不動もそうかもしれない。それでも根は2人して神経質ならしいから、マイナスになるような付き合いではない。そう思う。ただいつもより気を緩めて、ごろごろしているのがくすぐったい気持ちに時々なる。この島で再開した奴らに、不動が丸くなったなあ、なんて言われていたそれが、俺によるものだったら嬉しい。
鬼道と不動は互いを想いあっていた、それが本当だったし、2人は付き合っていた。
別れた時につけいったのは俺だろう。でも拒まなかったのも不動だ。勝手に押し入って抱きしめたのは俺だけど。背中に腕を回したのも不動だ。優しい言葉を告げたのは俺で、そして頷いたのが不動だった。卑怯だったのは俺で、不動だ。でもそれが悪い事だったなんて俺は思わない。不動は笑ってる。ならそれで構わないだろうと俺は思う。
「鬼道がさあ、多分俺と風丸の事、気付いてたよ」
「えっ」
ぎょっとした俺に不動は吹き出した。
「ずっと眉が寄っててさ」
「昔から変わらないだろ、…気付かなかった。ごめんな」
「謝る事じゃねーだろ」
いちろうたくんやっさしーい。茶化す不動に、それでも罪悪感みたいなものは薄れない。気まずかったろうな。でもどうしようもないから、深呼吸をして俺も笑った。あきおくんかわいいぞ。不動が眉を寄せたのを見て今度は心から笑った。そうして不動の手を握ったら、不動はちょっと口元をきゅっと結んでから目を逸らした。逸らした先にあるのは廃屋だ。さびれた廃屋。俺たちが拠点としている場所。ここに今の雷門のメンバーと過ごして、何日経っただろうか。あの時鬼道の振る舞いに何一つ気付かなかった俺もそうだけど。
鬼道のその少しの動作で、不動は気付いてしまうんだな。
「…鬼道さ、あいつが結局支えられていたのは、俺じゃなかったと思う」
「不動」
「2人だけで支え合える訳じゃないんだよな。俺はお前に支えてもらってるけど、お前以外にも支えてもらってると思う」
不動が目を細めて遠くを見た。つられたように俺もそちらに向いて、動く影にほっとした。ああ、あいつら、迷わないで帰って来れたんだな。ぱっと手を離されて不満げに不動をねめつけてやったら、ごめんって、なんて言って寄りかかってきた。そういうのはずるい。俺たちは互いに甘えてるんだから、何もかもを許してしまうんだけど。

「でも俺は、風丸くんとは、手を繋いで歩いているような気がする」

俺たちは背中合わせではない。なんとなくそう思って、おーいと重そうに薪を持ってきてる円堂たちに、駆け寄った。







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