支部から鬼不@

2012/11/05 20:25

※捏造してた何年か後のはなし



「不動は変わったな」

共通の知り合いに会う度に言われる言葉だった。
しみじみといった風の佐久間は、久しぶりに会ったという訳でもない。大体その台詞を告げるのは、顔をなかなか合わせない奴からのものだったが、俺とも、不動とも頻繁に会っているというのに、佐久間は不動の変化を敏感に感じ取っていたようだった。

不意に顔を上げた佐久間と目が合って、気付かぬ内に見続けていた事に気付いた。
佐久間は手元のコーヒーカップを揺らして、店内のガラス窓から外を眺める。話の中心になるだろう不動は、今日は居ない。

「鬼道は気付いてないか」
「…あいつが表情豊かになった事か」

俺の口を出たのは、会う奴会う奴に言われた内容だった。

「違うって」

佐久間は苦笑した。

「いや、それもあるかもだけど。不動さ、俺や源田の前でもお前に甘えるようになったな、って」
「…ああ、それは……確かにそうだな」

14歳、出会った頃の年に比べると、それはもう、オープンになった。恥ずかしがっていたし、強がっていたし、周りの視線もやけに気にして。そんな不動は、今はこのメンツで揃った時はスキンシップを取るのに遠慮がない。
そもそも不動は付き合いたての頃はひたすらに素っ気無かったけれども。

「最初は甘えなんて行動にも言葉にも出さなかったが」
「あ、それだよ!」

それ?
コーヒーを口にしながら眉を寄せた。ほのかに苦い。そう言えば、不動は中学の頃、コーヒー嫌いだったな、と思う。それでも時々俺のを一口飲んで、「にっが」なんて言いながら続ける内に、段々と慣れたようだった。コーヒー豆を時間をかけて選んでくるようになった。
佐久間は俺がカップをテーブルに置くのを見届けてから口を開く。

「不動は、好意を表すのを躊躇わなくなった」






「あ、おかえり」
「ただいま」

ソファの上で体育座りの体勢した不動は、部屋のドアの開いた音で振り返って俺にそう言った。
テレビの中で芸能人たちが騒がしく話している。不動は俺を見たまま首を動かさない。

「見ないのか」
「そんな興味ねーし。鬼道くん何か飲む?」
「いや、構わない」

「そっか」、と返し、不動は笑みを浮かべて手を差し出してきた。あまり意図が分からないままに、その手を握る。不動の手は俺のより少しあたたかかった。
不動の頬が更に緩んだのを見て、正解だったか。なんて、ぼんやりと思った。

そうだ。
こんな行動も、いつから取ってもらえるようになったんだろう。

「なぁ、さっき源田から借りたDVD見付けたんだよ。一緒に見ようぜ」
「見付けたってお前、いつ借りたんだ、それ」
「だいぶ前」
「怒るぞ源田も」

隣に腰掛けると、不動はテーブルの上のDVDを手に取った。「洋画だって。イチャラブしてたら俺も雰囲気に乗ってやろーか」にやにやと笑う不動を見て、ああ本当に、変わったんだったな、と気付く。
本当だ。
あまりに近いから、変化を一緒に受け入れていったから。

こうして改めて気付いて、口元が緩む。

「なに笑ってんの」
「お前が、好意を真っ直ぐに表すようになった。それを今更実感したんだ」
「は………」

ぽかん、としてから、不動は顔を背けた。いそいそとDVDのセットを始める。こういう照れる様子は、変わらない。胸をくすぐるような動作である。
今奴の顔は真っ赤だろうか、と思うと、やはり口元が緩む。にやける。

「ていうか」

不動が呟くように言った。

「まえ、鬼道くんが言ったんだろ。言葉も、行動も、どっちも大事だって。そうしないと気持ちは伝わらないだろうって」

不動は赤い顔のまま振り向いた。
早口になりつつ。少しジト目で、でも俺から目を離す事はなく。

「あんたがそう、俺にしてくれるから。……俺もそうなったんだよ」




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