どっかいって なんでだ。 「好きだ」 どうして、こんなロマンチックなシチュエーションで、 「付き合ってくれ」 男に告白などされにゃならんのだ。 いつか、親戚の姉ちゃんから聞いたことがある。世の中には男同士で愛情を育むのが当然になっている、オレからしてみれば耳掃除を耳から血が出るほどしたあとに聞いても理解できない空間が存在するのだと。なんだか知らねえがうっとりとした顔で、禁断の園がどうだか喚いていたのを覚えている。が、あいにくオレの通う高校はそんなファンタジー世界ではない。公立の、フツーの工業高校。 女子は少ないがまあちらほらいて、学校から出れば他校の女子などいくらでもふらふらしている。ので、彼女のいる同級生など腐るほどいるし、男同士で恋愛しているやつの話は聞いたことがない。 そもそも同性で付き合うってどういうことだ。結婚できないだろ、子どももできないだろ。手繋いで、キスしたりして、……そこまで考えて頭が痛くなってきた。想像したくない。 ちらと視線を上げれば、真剣な顔でこちらを見る男前。がっしりとした体は夕焼けの赤に照らされて温かみを帯びて、短く清潔な黒髪は窓の隙間から入り込む風にゆらゆら揺れる。どこからどう見ても男。もっと言うとスポーツマン。なんか知らんが格闘技とかしてそう。 あいにくだが、オレはこんな奴知らん。高校入学と同時に息がってた先輩どもをぶちのめしたオレに話しかける勇気のある奴はおらず、友人と呼べるような存在はいなかった。男に告白するような友人などほしくもないが。 「おい、聞いているか」 「あ?」 「お前のことが好きだと言っている。告白されたら返事をするのが礼儀だろう」 「ああ?」 なんだこいつ、偉そうに。誰に礼儀なんてもん説いちゃってるんだよ。残念だがオレの思い浮かべる礼儀に、男からされた告白に丁寧にお返事をしろなんて項目はない。冗談で流す、もしくは徹底拒否。それくらいである。 もちろん、この男とは初対面なので冗談で流して笑いあうような間柄ではない。ということは、選択肢は一つに絞られる。 「知るかアホ。誰があんたみてえな男、しかもガチガチしたやつと付き合うか。ホモなら他当たれ」 力なく拒否をし、溜め息を吐きながらそいつに背を向ける。無駄な時間過ごしちまった。なんとも達筆な字で時間と場所が書かれていたので果たし状かと思ってしまったのだ。まさかラブレターだったとは。うかつ。 まあ、告白とはいえ学校中から恐れられているオレに話しかけてきた勇気は認めてやる。久々に学校でした会話を思い出してついつい笑いが零れる。オレ、ほとんど暴言だけど。相手もなんか威圧的だったけど。 さあ帰ってテレビでも見るかと足を踏み出す。が、進めない。扉がまったく近くならない。なんだどうした? 疑問に思って振り返れば、夕日の赤の中からこちらを見降ろす男前。こうして見ると赤毛みたいに見えるなとアホみたいに考えて、その距離の近さに体を震わせる。げ、襟掴まれてる。 「な、なっ! おま、離せバカヤロウ!」 「離すわけないだろうバカはお前だ。なぜ逃げる」 「逃げてねえよ! たった今お断りしただろうが、オレは男は守備範囲外だバカ! 無理無理無理無理無理無理ボールゾーンど真ん中むしろデッドボールッ!」 「試してみる前から無理かどうかなど分からんだろうが。意外といけるかもしれないぞ、俺で試すというのはどうだ?」 「その試供品が! どうして! お前になるんだ!」 「俺がお前のことを愛してるからに決まっているだろう、それに応えるのは当然だ。やはりバカはお前だな」 「あ、あい……!」 こいつ、頭おかしいのか? つい暴れるのをやめて唖然と見上げてしまう。どんだけ自分に自信があるんだ。そんでもってどうして初対面のオレにそんなこと言ってくるんだ。オレがあんたの、なんだってんだ。 「ん、顔が赤いぞ。眩しいか?」 そして絶対、こいつのほうがバカだ。 ちなみにこの男が柔道部の部長で、前々部長だったオレの兄貴のかわいがってた後輩だとか。二年ほど前に顔を合わせてたとか。柔道部の部室から、中庭でだれてるオレを毎日のように見てたとか。 そういうことを知ったのは、これから何か月かあとのこと。 「放課後夕暮れ教室で、 不良が告白される。 驚愕で顔真っ赤。」 というテーマをいただいて END. 2014/05/27 |