あいのう。

NL表現注意。


僕は知っている。幼馴染がいつの間にか恋を知っていたことを。
もう一人の幼馴染と三人並んで歩いていても、彼の目線は僕をすり抜けていく。僕の頭よりずっと下、彼女の細い肩から横顔にかけてを、ほうっと見つめていることを、僕は知っている。
僕はと言えば、彼よりずっと先に恋というものを覚えていた。もっと言うならば、愛までも知っている。彼の視線は僕から見れば薄い桜色で、色の混ざり混ざった黒色には程遠いのだろう。赤、青、白、紫。感情の全てを詰め込んだような僕の視線は、ずっと彼に注がれてきた。彼はきっと知らないのだろうけれど。
親友だと笑いかける彼にもちろんと返しながら、いつだってその首を噛み切りたいと思っていた。彼女の声に耳を傾けるときには、その耳をねじりきってやりたかった。彼の目に情が宿ったとき、僕の世界は一度終わりを告げた。
男同士だった。幼馴染で親友だった。相談役で、保護者みたいなもので、ときには僕の方が子どものように甘えて、背中を預け合った仲だった。
裏切ったのは僕だ。淀んだ感情を一方的に抱いて、彼の信頼を裏切ったのは僕だ。だからこそ気持ちを告げることはしないし、彼が彼の親友に恋愛相談をするのを微笑んで聞いている。

「やっぱり、言わない」
「何言ってんの。ずっと伝えないでいるつもり? それでいいわけ」
「けど、幼馴染とぎくしゃくすんのはあいつだっていやだろ。お前だって、そんな俺らに挟まれたら気分良くないはずだ」
「僕はまあ、いいんだけどさあ。だいたいフラれる前提なのがいけない。弱気すぎ」

力のない背中をばしりと叩き、がんばれがんばれと声をかける。なんて不誠実な言葉だろう。本当は応援の気持ちなんて、これっぽちもないのだ。ああどうして、噛み締めた唇に触れるのは、僕でないのか。けれど幼馴染の彼女は僕も親しくしていて、それだけが救いとも言えた。彼女はいいやつだ。簡単に恨むことができないくらいには。
板挟み。身動きはとれないし、風速もゼロ。僕は軽薄な笑みをはいて今日も息を切らして生きている。
僕は知っている。幼馴染が僕の感情に気付いていないこと。そして、皆が単純に幸せになる道はもう決して見つけられないのだということを、僕は知っている。



私は知っている。幼馴染がいつの間にか、恋を知っていたことを。
幼馴染の男の子は、もう一人の幼馴染の男の子のことをいつだって見つめていた。幼い頃からずっと。私を間にはさんでいても、どんな話題が出ようとも、視線を外すことはなかったように思う。それが恋心なのだと気付いたのは、私もあの子のことを思うようになってからだった。
いわゆる、ライバルというものなのだろう。私たちは同じ人が好きだ。ただ普通と違うのは、そのライバルが男であるということ。男が男を好きだなんて物語の中だけだと思っていた私は、けれど、だんだんと苦しみを帯びていく彼の表情に、本気なのだろうなとぼんやりと思わされた。恋しさだけでない、愛しささみしさ、もしかしたら憎しみや劣情。私とどちらが重たいかしら。考えて、そんなの問題じゃないと思い直したのがつい最近。
彼は、気持ちを伝えるつもりはないようだった。どんなときもよい親友であり、その関係を壊すことは彼のおしまいを示しているようだと思っていた。
私たちの思い人は、彼の気持ちに気付いていない。私が彼の気持ちに気付いていることを、彼は気付いていない。

「おはよう! 二人とも早いねー」
「おはよー。今日僕ら二人とも日直なんだよ。ね?」
「はよ。ああ、先生がうるさいから早く行かないとなんだ」
「へえ、がんばってね」

彼の視線が名残惜しそうに思い人にまとわりついているのを私は見ている。それが肝心の本人に届くことがないのを、私はじっと見ている。
あの子のことが好きだ。彼には負けないくらい好きな自信がある。けれど二人とも幼馴染であって、私が恋心を実らせたことで関係が崩れてしまうのは、怖くて怖くて、手を伸ばすこともできなくなる。二人とも大事なのよなんて、いい子ぶったことが言えなくなったのは、いつからだっただろう。
「なにか手伝えることがあったら言ってね」
気の利く幼馴染の顔をして、私は今日も欺いている。大切な友人である彼、そして好きな人。変化が怖いのは何も一人だけではない。
針の上、ぐらぐらと今にも落ちそうな風の中。私は苦しみにあえいで立っているのもやっとの状態。
私は知っている。私たちの恋のアンバランスさを。彼があの子に触れるときに躊躇うのだということを、私は知っている。



俺は知っている。幼馴染たちがいつの間にか、恋を知っていたことを。
俺に向けられる視線が、何やら甘さを帯び始めていた。単なる好意だと思えていたのは本当に子どもの頃だけで、肉欲を伴った視線であると気が付くのにさほど時間はいらなかった。気持ち悪いだとかは思わなかった。そういう人もいるのだなと、それだけ。あいつは何も言ってこなかったし、俺も言及するつもりはなかった。俺たちは幼馴染で親友だった。それだけ。
そうしてまたしばらく、今度は同じく幼馴染のあの子が俺に恋愛感情を抱いていることを知った。恋に恋しているわけではなくて、しっかりとこちらを見ていることに驚いた。真っ直ぐに射抜いて、穏やかに歌でも歌っているかのような、恋なのだろう。
俺はいつの間にか彼女のことを好いていて、俺たちは両思いなのだと漠然と理解していた。けれど問題は、あいつも俺のことを好きで、また、彼女があいつの気持ちを知っているらしいということだ。男女三人の幼馴染がこんなややこしいことになるなんて、一体だれが考えただろう。男二人で女一人を奪い合うなら、俺にだってやりようはあったのに。
俺たちは幼馴染だった。ずっと一緒だった。楽しいこと悲しいこと色々とあって、どんなときだって三人でいた。俺一人の考えでそれを壊していいのだろうか? 二人も似たようなことを考えているのだろうと、いつか俺はぼんやりと泣いた。

「やっぱり、無理っぽいだろ。いいよ、当分」
「バカ、んなこと言ってると誰かにとられるんだ。早いに越したことない」
「俺は幼馴染でいいよ。まだ」
「何の話してるの?」
「なんにも」

あいつがほっとしているのが伝わってくる。もう少しこのままでいられると安堵している。いつ爆発するかもわからない関係だというのに呑気なことだ。
俺は知っている。俺はとてもずるいのだということを。恋愛相談をして、あいつの限界を図っている。あの子の気持ちに気付いていないふりをして、俺の気持ちもまた隠している。
俺は知っている。いつか俺たちの関係が崩れること。そのとき俺の隣に誰がいるのかは、知りたくもないけれど。





END.


[*prev] [next#]

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -