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「用意して欲しいもの?」
どういうつもりだ、と聞くと逃走だよ。と片原が応える。
「逃走だと?」
そう再度問うと、今度は片原の代わりに大津が応える。
「僕らのボスは、云ってしまえば犯罪者。僕らは脱走者。だから、逃走資金と逃走ルートを確保して欲しいんだ。勿論、内務省の異能特務課には秘密でね。」
異能特務課の事まで知っているとは、油断ならないな。
だけど、我らボスの返事は決まっている。でも、これだけ頭の回る奴等だ。それの対策も取られているんだろう。
「厭だ。と云えば?」
そう問うとこの町を燃やすと宣った。
「この町を…だと?!」
そして付け加えるように片原が云った。
「そう。貴方たちマフィアがこの町の均衡を保つ一員なのは知っている。だから、この町を燃やす。そうすれば、貴方たちは要求を飲むしかないでしょう?」
「だけどどうするの?ここで要求を飲まなければみんなで町に火を放ちに行くの?その前に我々マフィアに先に止められると思わない?」
すると、片原はクスリと笑った。
「そうだとしたら、俺たちは、間抜けだね。」
そう云い、ふうとため息をつき顔を俯かせたと思うと髪を掻き上げつつ顔を上げる。
その表情は、先ほどの片原の表情とは全く違う凶悪なものに変わっていた。
「おおっと…」
片原は、危ない危ないと自制したように見えた。
「それで?どうやって町に火を放つのかしら?」
疑問をぶつけると、片原は自身を指さした。
「俺の異能力。『炎の刻印』で。だよ」
まさか、彼一人の異能で町が火の海になるというの?
有り得ない。そんな強大な異能、使えば中也の汚濁のように体への負担が掛かり過ぎるに決まっている。
「ありえないと思う?僕も最初は思ったよ。でも、彼ならできる。凶悪犯罪者、片原健友ならね。」
と、大津は云った。
片原 健友
聞いたことがある。
ヨコハマではないが、町一つ全焼させ、刑務所に入っていた、と。
そんな彼が、脱走したとも聞いている。
まさかこんな抗争に参加していたとは。
ん?抗争?
おかしい。
抗争していたハズなのに死体どころか争った形跡すらない?
まさか、デマをつかまされた?
私がついた時にはここの奴らは私を待つようにいた。
まさか…
「あなたのその異能力…人間の骨をも融かす温度なんじゃ…。」
すると、片原や大津とは違う渋い声で、正解。と声がした。
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