昼間だというのに、外は寒かった。時折冷たい風が吹き付けてくる。鼻先までマフラーで覆って、薫は大きく嘆息した。ふわっと眼鏡が白く曇る。

「……寒い」

くぐもった声で呟き、高校の校門前で体を抱いた。紺のダッフルコートがかじかんだ指には硬い。背後の校舎からぞくぞくと生徒が出てきて、寒いと連呼しながら薫の横を通っていった。今日は風が強い日で、それでも何を思ったのか学ランにマフラーのみで帰路につく生徒はいるもので。学校の外は彼らの後悔の悲鳴とそれ以外の人の文句であふれていた。しかし彼らの顔には暗いものはない。

「明日から冬休み、か……」

はあ、とつまらなそうに呟けば、薫の眼鏡はまた曇った。

「お、ま、たぁ〜」

薫の眼鏡と真逆の、酷く晴れた声が校舎側からかかる。振り返れば、学ランにマフラーのみの男子生徒が薫へと駆け寄ってきていた。

「おっまたっせ薫! しっかしさっむいな!」
「彰人……その格好で言うなよ」
「大丈夫だと思ったんだよ、今朝のおれは」

恨むぜ、と他人事のように言い、彰人は薫の肩をバシンと叩く。薫の小柄な体は簡単に体勢をくずした。眼鏡が鼻先までずり落ちる。

「うわっ……!」
「よーし、今日はどっか行こうぜ!」
「はあっ?」
「だって今日はもう暇なんだろ? 薫」

眼鏡を押し上げた薫に、全てを知っているような口振りで彰人が言う。確かに、今日はいつもと違って放課後の教室に長居できない。というのも、先生方の職員会議、そしてその後に忘年会があり、先生の誰もが学校に残れないせいだ。まさか高校でもこんな目に遭うとは思わなかった。

「小学中学では職員会議のため居残り厳禁っていうのはあったけど……」
「な。だからさ、薫暇だろ? たまには勉強ばっかじゃなくて、ゲーセンとか行ってぱーっとさ」
「図書館空いてるかな」

彰人の言葉を完全に無視して薫は思案顔をする。確か市立図書館は夕方五時まで開いていたはずだ。昼に学校が終わったというのに、この時間を有効に使わないわけにはいかない。
真顔で考え始めた薫に、彰人は顔をひきつらせる。

「……さすが薫、全国レベルの秀才……考え方変だろ」
「変?」
「ああ!」

力強く言い、彰人は拳をグッと胸の前に掲げた。

「いつもより長い放課後! これは神が我々に存分に遊べと言っているに違いない!」
「随分な神様だな」
「遊びは子供の仕事って言うじゃんか!」
「学生は勉強が仕事だって言われたばかりだけど」
「……そいや全校集会で校長だかが言ってたな……」

握りしめた拳を無意識にか緩ませ、彰人は言い訳を探す子供のように視線をさ迷わせた。そんな友人に、薫は大きくため息をつく。

「……僕は図書館に行くよ。じゃあ」
「いやいやいやいや」

歩き始めた薫の腕をがっしと掴み、彰人がぶんぶんと首を振る。

「何でそうなるんだよ」
「何でって」
「誘ってる奴がいるのにそれを無視するこたぁないだろ」
「興味がない行くつもりがないつまらない」
「つまらっ……!」

あっさり返した薫に、彰人は顔をひきつらせ、がっくりと項垂れ、天を仰ぎ、俯いて額に手を当てた。

「……ああっ、もう!」

我慢ならないとばかりに声を上げる。

「はい、連行!」

ぐいっと薫の腕を引っ張り歩き出す。

「へぎゃ!」

突然のことに変な声が出た。パッと顔を赤らめた薫に対し、彰人は気付いた風もなくずかずかと先を行く。

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