城内に一つの部屋がある。彼女がピアノを弾く部屋が。時たまそこで彼女はピアノを弾く。その音は、僕の部屋に届く。そうすると、僕は彼女がピアノを引いているところにいく。
彼女がピアノを弾きはじめたのは、彼女が小学生の時だったという。それからずっと彼女は音に触れていた。外国の商人がピアノを見せた時、彼女はすぐにそれを購入した。
僕は廊下を歩く。
彼女のピアノの音が響く。音は涙を流さない彼女の代わりに大声で泣く。彼女の始まりの旋律はいつも涙だ。
僕は静かに扉を開いた。
彼女は一心不乱にピアノを弾く。
最後の一音が宙に舞って消えた。
「交代しよっか。」
僕は奏でる。君が安心できるように。あちらの世界に嫌われた僕らはこちらの世界に愛された。あちらへの心残りは山ほどある。それでも僕は君といたいと思うんだ。
だから僕は奏でる、君への愛を。
Sonitum amor, waltz meduramini.
(愛の音、ワルツの調べ)
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あとがき
夕月夜番外編です。本編のページ作ってすらいないのに作品があがっているという不思議。本編の完成には時間がかかりそうです。