朝起きて、朝食を食って、適当に時間潰して…
そんな平和な日が続いていた、永遠に続けばいいとさえ思う穏やかな日々。けれど、そんな平和に限って長くは続かない。
それは、暇潰しのため館の外を眺めていたときのことだった。
見てしまった、黒い翼も白い翼。館の近くにまで来ている。俺を捕らえようと、天使軍と悪魔軍が手をくんだのであろう。これは非常に、まずい。
「シレーナ!」
「なに?そんなに慌てて…」
「天使軍と悪魔軍が、攻めてくる」
「どういうこと…?そんなことあるわけないわ」
「いや…ほら、見てみろ。天使軍と悪魔軍が手をくんだ。呪いなんて厄介な障害物にすぎない…」
慌てて大きな窓に駆け寄るシレーナに指差して教えると、ポツリポツリと見える白と黒にシレーナは深海のような瞳を見開いた。
「……俺はここから出ていく」
シレーナは窓の外を眺めたまま動かず、声も出さない。
窓にうつりこむシレーナと目があった。
「あいつらがここまできたら、それこそ血を血で洗い流すことになる。
そこにシレーナを巻き込むわけにはいかないんだ。」
「忘れちゃったのかしら、私の得意魔法は攻撃よ?」
「ダメだ。危険すぎる。」
「どうして?」
窓に手をついたまま振り替えるシレーナは、小首をかしげながら問い掛けてきた。
「どうして、って…死ぬかもしれないんだぞ?!」
「私は充分長い間ここで生きたわ、それこそ人間の寿命を軽く越すほどに」
ヒュ、と息を飲む。
長く生きた、だから死んでもかまわない。
たしかに、これはある意味正論と言えるのだろう。普通では有り得ないことなのだから。
「死にたいわけではないの、ただもう死んでもいいっていう、それだけのことよ
死ぬことは怖くない、……といえば嘘になるかもしれないけれど、この世に産まれたのならいつかは必ず死ぬ」
今までの俺なら、共に戦うことを許しただろう。……いや、シレーナに傷がつくことになんとも思わなかったかもしれない。
なのに、どうしても引き留める理由を探している。
シレーナがいれば心強いだろう、けど、もし…万が一のことが頭をよぎる。
仕方がないだろう、愛してしまったのだから。
「……ダメだ。」
「どうして…っ!」
「それに、シレーナはこの館から出られないだろう?」
「バーンが扉を開けてくれれば外に出られるはずだわ!」
「……これは俺の問題だ」
俯いてしまったシレーナの頭を撫でて、言い聞かせる。シレーナの肩は心なしか震えていた。
「……独りになるのは…嫌。」
さっきまでの威勢は消え失せ、恐れるようにシレーナは言った。
「だから、お願い…行かないで…っ!」
置いていかないで、ともとれるその言葉をはねのけることは俺には到底できそうにもなかった。
「……奴らが、攻めてくるんだ。」
「それまでここにいて、…時が来れば…私も戦う。」
すがり付くような、そんな声で。シレーナは言う。
「……わかった。」
だから俺は、残ることを選んでしまった。
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