13.仲良し三人組

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 初めてあの部屋に入ったときはその埃くささに後悔の念しかなかったけれど、今となってはこのにおいが僕を奮い立たせてくれるんだからどうかしていると思った。
「ほら、もっといつも通りにしてよっ。ケンのへたくそ!」
「いつも通りに出来るわけないだろ、そんなもん向けられて」
 彼女の要求は、あくまで『自然な生徒会活動の様子』だった。そのために30分程掃除をし、黒板を綺麗に消し、机を並べ直して撮影に臨んでいる。自然とは何か小一時間ほど問い詰めたいところだったが撮影なら仕方ない。
「カメラなんてここにはないの! ……ほら、ハセの方が自然でいいじゃなぁい」
 パシャパシャと景気よく切られていくシャッター。ファインダー越しにマナが見ている世界で、僕たちはどんな顔をしているのだろう。
 生徒会に所属するなんて、高校入学時の僕は考えもしなかった。



 高校に入学して一番印象的だったのは、生徒たちを出迎える巨木の存在感だった。樹齢何年になればここまで堂々とした佇まいになれるのだろう。この樹が見送った卒業生の数は一体どれくらいになるのだろう。
 由緒正しい、地元では名の知れた進学校に入学した。かといって別段それを誇りに思ったりはしない。単に、もっとも通学しやすい高校に実力で入れた、ただそれだけのことだと思った。
「よっ、ケン」
「ああ、ハセ」
 高校に入学して一週間目の今日、放課後に新入生向けの部活動・委員会活動を紹介する催しが執り行われた。委員会は委員募集を呼びかけ、運動部は精鋭たちのパフォーマンスを、文化部はそれぞれの持ち味をパネルや演奏で披露してくれた。僕はそれらに目を輝かせ惜しみない拍手を送る大勢の新しい学生服にまぎれて文庫本を読んでいた。
「お前、部活とか興味ある?」
「いや、ない」
「俺もー。じゃ一緒に帰ろう」
 中学校以来の友人、許斐馳(このみ・はせる)が僕の隣についてくる。生徒玄関を出てすぐの広場は先ほどの催しの延長なのか部活勧誘でとんでもなく騒がしい。あの群衆の中を一人で歩くのは確かに心もとなかったのでよしとする。
 急いでるんで……とありきたりな嘘をまとって熱い勧誘から身を守る。抜け出して校門を出ようかというところでハセが思い出したように切り出した。
「あ、ちょっと待って。知り合いに用があるからちょっと寄っていいか?」
 ハセの指差す方向には、古ぼけた小さな小屋。入り口には一枚板に大きく書かれた「生徒会館」の文字が見える。


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