テニスと初心者








"種目 テニス:中津川"





LHR中、気が付いたら黒板に書かれていた私の名前。


…はて、一瞬意識が遠のいていた間に何があったのでしょうか。




『……な、なにあれ?』

「何って…今度の球技大会の種目決めだよ?」


斜め前の席の春菜が振り返って、そう言った。



『きゅー、ぎ…たいかい?』

「未央さっき寝てたでしょ?だから私が代わりに推薦しといてあげたよ」


ふふっ、と可愛い笑顔を振り撒きながら言われても困るよ春菜。

…そういえば、もう球技大会の時期なのか。
去年はバレーボールに出て、リベロでひたすらボール拾いまくったなぁ。



というか、私…






……テニスしたことありませんが?










***



「そういや未央、球技大会テニスに出んだって?」


夕食後、食器を片付けている時にガムをぷくぅと膨らませた、ブ…ブブブン太に聞かれた。
あぁ、名前呼びにくいし。


あれ以来、ブン太には少し慣れてきて。無視しないでちゃんと話すようにはしてる。

あ、まだ顔は直視できないけど。



『そうっ、みたい。…って、何で他クラスなのに知って…』

「春菜が部活ん時、得意げに言ってたぜぃ?"未央をテニスに推薦してあげたんだ〜"って」

『……』


春菜、それ得意げに言うことじゃないよ。



「お前テニス出来んだなー。前やってたとか?」

『………な、い』

「は?」

『…テニス、やったこと…ない』

「………マジかよぃ、」




正直にこんな話をしたら、「じゃあ、俺が未央にテニスを教えてやる!」と言われ。

「男に教えられるのなんか嫌だ!」と反発したら、「じゃあ負けてもいいんだ?」って…。



"負けてもいい"?

はっ、誰がそんなこと言いました。
最初から負ける前提で思われてるのは私の数少ないプライドが許さない。




『――…私、やる!テニス教えてくださいっ!!』

「……案外、単純なのな」



やってやろうじゃないか、テニス!!







……と、意気込んだところまでは良かった。


早速翌日の放課後から教えてもらうことになり、テニス部の練習が終わるまで待ってろと言われた。

が、テニス部といえば全国でも強豪の部類に入るらしく、その練習が終わる時間も遅くて。
終わった頃には、9月といえど既に暗くなっていた。




『ねぇ、もう暗くなり始めてるんだけどっ…』

「でも、まだボール見えるだろぃ?」

『…、まぁ』

「それに、コート使うの幸村くんに許可取ってあっからギリギリの時間まで大丈夫だぜぃ!」

『そう…』



幸村、くんって…誰だっけ。
最近聞いたような気がするけど……まぁいっか。

そう考えた瞬間、背筋がゾクッとした。


なにっ、今の!?




「とりあえず、どんくらい出来んのか知りてーから、俺が打ったらこっちのコートに返してみ?」

『え、ちょっ…いきなり?』

「大丈夫大丈夫、軽ーく打つから」

『っいやいや、私初心者って言っ…』

「んじゃ、行くぜーぃ」


ポーン、と軽く打たれたボールを訳も分からないまま、とりあえずラケットを振った。




『!?うわわわ、…っやぁ!』


無我夢中で反射的に打ったボールは、大きな弧を描いて向こうのコートに落ちた。




『…おぉっ、入った!』

「運動神経は悪くねーみたいだな、……よっと」

『うわっ、また来た!……たぁっ!!』



返ってきたボールも、再び大きく弧を描いて相手コートでバウンドした。

打ったら返ってきて、また打ったら返ってくるを繰り返す。
たまに空振りしながらも、とりあえずボールを打つ感覚というものがわかった気がする。





『…っ、はぁ……っ』

「よし、今日はここまでだな」

『う、…っうん』



軽く息を整えながらの私に対して、ブン太は汗一つかいていない。

まぁ、運動部だから当たり前なんだけどさ。





「だいたいお前の悪いとこわかったから、明日からそこ重点的に練習な」

『…うん』




この時、周りが暗くてブン太がニヤリと笑ったことに全く気が付かなかった。


そして後から、どうしてあの時冷静になって女テニの子に指導を頼まなかったのか…

男なんかに指導を頼んでしまったのか。


激しく後悔することに、まだ私は気が付いていなかった。




  


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