前途多難です![]() 「丸井ブン太、シクヨロ!」 『……』 ピースとウィンクしながら自己紹介されるのに対して、私は顔を横に背けた。 なになになに。 シクヨロって何語? ウィンクとか…男にされると吐き気がっ…!うぇぇー…。 「うっわー、マジで男嫌いなんだな。つーか、あからさまに顔逸らすなよぃ」 『……』 「ついでにシカトかよ!」 もう本当に勘弁してください。 やっぱり同年代の男と同じ家に住むなんて、私には無理だ。 「あら、未央ちゃん男嫌いなの?」 「あぁ。学校でも有名だぜぃ」 『……学、校?』 「未央ちゃん知らなかったかしら?ブン太も立海大付属の二年生なのよ」 『……うそ…』 居候先に同じ学校の人?同じ学年? ありえない。笑えない。 「でも、未央ちゃん男の子が苦手なら……」 そうです。同居も、ましてや許婚なんて絶対無…… 「同じ家で暮らしてみて慣れるのって、ちょうどいいわね!」 よくありませんからー!! 「許婚なんだし、早く仲良くなってね」 『いや、あのっ…』 「は?許婚?何言ってんの母さん」 「何って…未央ちゃんはブン太の許婚なんだから、仲良くなるに越したことはないでしょう?」 「…………はぁああー!?」 あ、どっかで聞いたことのある展開。 今までガツガツとカレーを食べていた手を止め、ガタッと椅子から立ち上がっていた。 「んな話聞いてねーよ!」 「あら、話さなかったかしら?でも別に異論はないでしょう?」 「あるに決まってんだろぃ!?」 この人、許婚のこと聞いてなかったのか。 『あっ、あの!私も許婚とかっ……!』 赤い髪の人もやっぱり嫌みたいだし、この流れに乗って私も断固反対の意思を伝えて………!! 「…え、何?嫌だって言うの?」 美代子さんの言葉に、この場の温度が2・3度下がった気がする…。 「い、いや……何でもない…、」 『……あり、ません…』 今学んだこと。 それは、「美代子さんには逆らうべからず」。 *** 『…美羽、眠いならちゃんとベッドで寝なさい』 「ん〜…」 『もう…』 明日から始まる学校の準備をしている間に眠くなってしまったらしい美羽。 見兼ねた私は、ベッドまで運んで布団を掛けてあげた。 しょうがないから、後でちゃんと宿題が入ってるかどうか確認してあげよう。 『さて、と…水でも飲んでから寝ようかな』 頭を拭いたタオルを持って、私は部屋から出る。 「……あ、」 『………あ』 廊下にはちょうどお風呂上がりらしい、ブ…ブン太だっけ?名前。 その人がいた。 「なに、もう寝んの?」 『…っ…』 コクコクと首を縦に振る。 ひぃぃいーっ! なんで上に何も着てないんだ、この人っ!! 上半身裸の彼を直視できずに、ギュウッと目を固くつぶる。 「…ふーん、男嫌い…なぁ?」 『え…?』 物凄く近くから声が聞こえた気がして、思わず顔を上げた。 か、顔近っ!! 顔を覗き込むようにされていて、ビックリして持っていたタオルを落としてしまう。 『ぎゃっ、来ないで!変態っ』 「変態!?」 今の状況から逃げたくて、下も見ずに後退りしたのがいけなかった。 私は落としたタオルに足をとられ、後ろにバランスを崩してしまい…。 咄嗟に相手の首にかかっていたタオルを引っ張る。 『ひあ…っ、!?』 「は!?ちょっ…!」 ――ガタガタッ ――――ドサッ! 『…うぅー…いっ、た〜…?』 ……あれ。 なんか、体重い。 それに頬に柔らかい感触が、……? 「……あ…」 『……』 目を開けると、視界いっぱいに赤い髪が映っていて。 一瞬、頬にキスされていることが理解できなかった。 「わっ、悪ぃ!!わざとじゃねーって!」 『……き…』 「へ?」 『…きゃぁぁぁああーーーーーーーっっ!!!』 バチンッと気持ちいいくらいの音が丸井家全体に響いた。 |