いざ、丸井家へ!







「さ、入って入って」

『お邪魔します…』

「お邪魔しまーすっ」




美代子さんに連れられて来た先は、少し大きめの一軒家。

私たちが住んでいた所とは立海大付属高校を中心にするとちょうど反対側。
初めて見る住宅街のホッとする雰囲気に、私はしばらくキョロキョロしていた。



ここに、私の許婚とやらがいるのか…。
"許婚"だなんて、考えただけでこそばゆいっ!

グッと体に力を入れ、美代子さんの後に続いて家に足を踏み入れた。








『…わぁ…っ!』


案内された部屋はベッド2つと机が既に置いてあって。
先に送っていた荷物のダンボールも隅に重ねられている。

可愛らしいカーテンなどの小物は、きっと美代子さんが用意してくれたのだろう。

ここが、私と美羽の部屋。



『こ、こんな素敵な部屋いいんですか?』

「いいのよーっ、うちは息子三人だから未央ちゃん達みたいな可愛い娘が欲しかったんだから!」

「美代子さん、ありがとうっ」

「ふふ、どういたしまして」

『……』



正直、こんなに歓迎されているとは思わなかった。
ママと一緒に勝手に許婚なんか決めちゃう人だから、もっといい加減な人だと思ってたけど…。
むしろ、実際のイメージは正反対。

こんなに嬉しそうにされると、許婚反対だなんて言いづらいなぁ…。




例の息子やその弟達(二人いるらしい)は部活やらクラブやらで、まだ帰ってきていないから今のうちに荷物を片付けるよう言われた。

自分の服や荷物を出しては、タンスや机に入れていく。



『……はぁ、』

「お姉ちゃん、ため息つきすぎだよっ」

『だってさー、家に男がいるんだよ!?ため息もつきたくなるって』

「美羽は楽しみ!同い年の子がいるってママ言ってたし」

『美羽はいいよね…』


私と違って男嫌いでもないし。



…なんて話をしていたら、下から美代子さんの「ご飯できたわよー」という声が聞こえ、私たちは顔を見合わせた。

いよいよ丸井家全員とご対面だ。
き、緊張するっ!









***



『中津川未央、高二です。今日からお世話になります』

「中津川美羽ですっ、小四です!よろしくお願いします」


私と美羽はペこりと頭を下げる。



「ふふっ、二人とも可愛らしいでしょ?あ、こっちが夫の…」

「丸井慎太郎です。二人とも、ここを自分の家だと思っていいからね」


にっこり笑い掛けてくれるその笑顔は、すごく優しくて。
少し美代子さんと似てるな、って思った。



「俺、草太!小学一年生!」

「光太!小四だぜぃっ」


眩しい程の明るさで自己紹介してくれた二人の弟くん達。



「光太は美羽ちゃんと同い年ね。仲良くしてあげるのよ?」

「光太くん!よろしくね」

「お、おぅ!」


うん、小四コンビは本当に仲良くできそう。
お姉ちゃんは一安心だよ。

問題は……これからだ。

例の息子はまだ部活から帰ってきていない。
できれば一生会いたくないな…。


すると、ガチャッと玄関のドアが開く音がして。
同時に私の体もピキーンと硬直する。
バタバタと廊下を歩いてくる音と共に部屋に入ってきたのは…。






「なぁ、この匂いってカレーだろぃ!?ってか、知らねー靴があんだけど……………、?」




バチッと絡み合う私と彼の視線。

派手な赤い髪と、クリッとした大きな瞳。
ジーッとこっちを見てきて、なんだか気分が悪くなってくる…。


うわ、もうこっち見るな〜…。




「……お前、中津川未央…だろぃ?」

『え…、』




どうやら、赤い髪の彼は私のことを知っているみたいです。



……私に男の知り合いはいませんが?




  


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