心境の変化と同情![]() *Bunta side* 「――で、中津川さんはどうだった?ブン太」 「あぁ、特に予定ないみたいだから大丈夫だと思うぜぃ」 「ふふ、じゃあ早速学校側に申請しないとね」 「では、それは俺がしておこう」 「頼むよ、柳」 金曜日の放課後。 今日はレギュラーのみの簡単なミーティングだけで、最後に幸村くんに報告すれば満足そうな笑みが返ってきた。 …少し、未央が可哀相な気がした。 かと言って、俺は幸村くんに逆らえないからどうしようも出来ないんだけどさ。 未央は、母さん達の勝手な話で許婚だとか言って俺の家に来た。 元々、男嫌いだっつー噂は知ってたからどんだけ変わったヤツなのかと思ったら…。 まぁ、案外普通の女子だった。 でも視線合わせようとしねーし、近付いたり触った時なんかは絶叫する。 (あ、やっぱ変なヤツか?) 「あ、中津川!」 『…っ…!?』 ミーティングが終わり、教室の忘れ物を持って帰る途中、耳に入ってきたのはアイツの名前。 チラッと声が聞こえた方向を見ると、男子に話しかけられて体をびくつかせていた。 あげく、春菜の後ろに隠れて春菜を通訳にしている。 「マジで、あんなヤツいるんだな…」 初めて会った時もそう思った。 自分で言うのもあれだけど、俺達テニス部は中学ん頃から女子にキャーキャー言われてきた。 ぶっちゃけ、練習の時騒がれるのは迷惑だったけど、差し入れと言ってお菓子をくれんのは俺的には幸せ。 だからなのか、未央の反応は俺にとっては新鮮というか珍しい。 それは俺以外のテニス部レギュラーも同じらしく、何だかんだ結構みんな未央のことを気に入っているっぽい。 「…帰る場所一緒だし、声かけてみっかな」 まぁ、嫌がられるだろうけど。 そんなことを考えながら下駄箱で靴を履き変え、未央に声をかけようとした時。 「なっ、だから今度一緒にどっか遊びに行かね?長友も一緒でいいからさっ」 「うわー、なんか私オマケみたい、」 『…え、えええ遠慮っ、しとく…!』 「マジ頼むよ!そいつ中津川のこと結構気になってるみたいでさ!」 『ひっ、!?さささ触んないでっ…』 腕を掴まれ、未央は咄嗟に男子の手を振り払っていた。 うわ、あの男しつけーな。 あそこまで必死だと、友達の為じゃなくて自分が未央に気があんのバレバレだろぃ。 春菜はたじたじだし、多分あと数秒後に未央が叫びそうだから、助けてやるか。 『ちょっ、半径1m以内に近付かな…っ…!』 「はい、そこまでー」 『…ぅあっ、!?』 じりじり近付いてくる男子から遠ざけるように、未央の体を後ろに引っ張った。 必然的にバランスを崩した未央を受け止める。 「あっ、ブンちゃん!」 「なんだよ、丸井か。俺、今中津川と話してんだけど」 「コイツ明らかに嫌がってんだろぃ。これ以上嫌われる前に止めとけば?」 「うっ……わかったよ。じゃ、じゃあな!」 ガムがパチンッと割れると同時に、男子はそそくさと帰っていった。 「おい、大丈夫かよー?」 『………はっ!あ、あれっ、ブン太!?』 一瞬意識が遠のいていたのか、我を取り戻した未央は目をパチパチさせていた。 支えていた未央の体を離し、「今帰りだろぃ?一緒に帰ろうぜぃ」と言えば案外あっさりOKされた。 …もっと拒否られると思ったんだけどなー。 予想外だ。 おまけに、聞こえるか聞こえないぐらい小さな声で「ありがとう」って言ったのを、俺は聞き逃さなかった。 「…明日は雨かもな」 『?て、天気予報は晴れって言ってたけど』 「未央が素直だと天気予報も外れる…………っと!?何すんだよぃっ」 『っきぃー!ブン太のくせにっ…ほんっと男って失礼極まりない!』 「"男"って一くくりにするお前の方が失礼だろぃ!」 殴りかかろうとした未央の手首を掴み、自分の身を守る。 それが逆にカンに障ったのか、余計に怒っていた。 ふ、と思う。 許婚なんて正直どうでもいいし、当人同士にその気がなければ無効だ。 第一、未央は男嫌いだし、俺もその気なんてねーしな。 だけど……さっきも今も、あの男子みたいにすぐ手を払われないことに、どこか嬉しいと思ってる自分がいた。 「そうだ!明日空けとけよなっ」 『なんで』 「準備に決まってんだろぃ」 『……準、備?』 すぐ隣でニコニコ笑う春菜に、未央は首を傾げていた。 男嫌いで変なヤツだけど… つくづく可哀相なヤツだなって思った。 これから起こることは、きっとコイツにとっては地獄だ。 |