もっと甘く、シクヨロ!







『――…えっ、じゃあ来週一週間学校来ないの?』

「うん。他の学校と合同合宿で………っと、完成ー!未央出来た?」

『一応は…。でも、なーんかこのクリームの部分気に入らないんだよねー』

「そんなことないよ、ちゃんと綺麗にデコレーションできてると思うよ」

『…そうかな』



どこか納得していない自分がいたけど、まぁいっかと思いながらエプロンを取った。

今日の調理実習の内容はカップケーキ。
一人4個作ったのだが、周りの子達は誰にあげるだので盛り上がっている。

家庭科室から教室に歩いていると、ちらほら聞こえてくるのは"仁王"、"幸村"、"丸井"など主にテニス部。


そういえば、他のクラスも調理実習あるって言ってたなぁ。


…モテるのか、あの人達。




『春菜もテニス部の人達にあげるの?』

「んー、どうしようかな。未央は?」

『私?私は……』


…誰にあげようか?

帰ってから美羽達にあげようかな。


そう考えていたら、ぐぅっと春菜にも聞こえないぐらい小さくお腹が鳴った。



『…いっそ自分で食べるって手も、』

「あげるヤツいねーんなら、俺にくれ!」

『…っ、!?』


ギョッとして後ろを振り返ると、両手いっぱいにカップケーキを抱えたブン太がいた。
既に何個か食べながら。



『…っ、やだ』

「なんでだよ、余ってんならいいだろぃ?」

『だ、だって、そんなに貰ってるなら十分じゃん』

「ケチ」

『ケチで結構』


あれ、なんか周りの視線が痛い。

よく見ると女の子達が私達の方(というよりブン太)を見て、そわそわしている。

あ、そっか。
モテるんだった、ブン太も。


中には私を睨んでいる子もいて。
…これだから、男と関わるとろくなことがない。

ってか、女子の皆さん大丈夫ですよ。
私、男嫌いだから。




『じゃっ、さよなら!』

「あ、おい!」

「ブンちゃん、また部活でねー」


呑気に手を振っている春菜の腕を引っ張って教室までダッシュした。

厄介事は逃げるが勝ち!ってやつだ。



途中、他のテニス部何人かに遭遇したが、春菜がカップケーキをあげれば大人しく引き下がって行った。

でも一人だけ例外がいて。




「春菜のももちろん貰うけど、中津川さんのも食べたいな」

『え、遠慮しときます…っ』

「いつも面倒見てあげてるのに酷いなぁ、その態度」

『…ひぃっ!!』



一番しつこかったのは幸村くんだ。

面倒見てもらった覚えはこれっぽっちもない。






なんとか幸村くんから死守したカップケーキ4個を全て家に持って帰ってきて、美羽達に1個ずつあげた。



「わー!ありがとう、お姉ちゃんっ」

「未央ちゃんサンキュー!」

「美味しいよっ、未央姉ちゃん!」

『あはは、良かった』


本当に美味しそうに食べてくれるから、こっちも自然と笑顔になる。



…さて、余った1個はどうしようか。

味見してないし、やっぱり自分で食べちゃうのが一番良いよねっ。




『この部分の生クリーム、冷やし過ぎて上手く絞れなかったんだよね…』


でも、まぁこの経験を次回に活かすということで。



『いっただっきまー……』

「ちょい待った!」

『ぁがっ……!?』



大きく口を開けて食べようとした時、後ろから背中にのしかかられ持っていたケーキを奪われた。


顎がっ!
歯がぁっ!!




「ふぅ〜、危なかったぜぃ」

『な、ななな何すんのっ!?』

「お前、今このカップケーキ自分で食おうとしただろぃ」

『自分で作った物を自分で食べて何が悪いっ…』

「"くれ"って言ったじゃんか!」

『それに対して"やだ"って言ったんだけど…っ』



「そーだっけ」と、とぼけるブン太にイラッとした。

大体あんなに貰ってたカップケーキはどうしたんだ、と聞けば、もう食べたと返ってくる。


この体のどこに入るのか疑問だ。

前にお腹見た時、結構筋肉だったのに…………って。



ぎゃあぁーーーーーっ!!!

余計なもの思い出してしまった!


ぞわぞわするっ。

かゆい、体がかゆいっ。




「未央って、たまに百面相してて面白いよなー。んじゃ、いただきまー……」

『…ぅあっ、!?』



ハッと我に返れば、時既に遅く。

カップケーキにかじり付いて、もぐもぐと頬張っていた。




『あぁー………』


私の、カップケーキ…。
しかも微妙に失敗作。

なんてことだ。
あの幸村くんからも命懸けで死守したというのに、こんなにあっさりとブン太に食べられてしまうとは。


ガックリとうなだれた。





「…あ!そういえばさ」

『……なんでしょうか』

「お前来週何か予定ある?」

『…普通に学校だけだけど、』

「んじゃ、大丈夫だな!」



何が大丈夫なんだ。

なんかもう…疲れたから部屋戻ろう。


溜め息を吐きながら立ち上がろうとすると、ガシッと腕を掴まれた。




『っ、ひ!?』

「美味かったぜぃ!今日食ったカップケーキん中で一番っ」

『…!』




思いがけず目が合ったブン太は、頬に生クリームをつけたままニッと無邪気に笑った。


…男とこんなにしっかり目を合わせたのはいつぶりだろうか。




「でももっと甘い方が俺好みだな!次からシクヨロっ」

『っだ…誰もブン太の好みなんか聞いてないんだけど!』



とりあえず、掴んだ腕を早く離して欲しい。




  


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -