ギャップ萌え? 時刻は8時過ぎ。 日曜日といえど、居候の身である為さすがに起きなきゃマズイ。 そう思って、眠い目を擦りながらリビングにいる美代子さんに挨拶をする。 『ふぁ〜……おはようございます…』 「おはよう未央ちゃん!ねぇねぇっ、これどうかしら?」 『?…………わぁっ!』 か、可愛い…! おずおずとリビングに入ってきたのは、花柄のワンピースを着た美羽。 髪もおだんごに結ってもらってて、いつもと違ってなんか新鮮だ。 たまらず美羽をギュッと抱きしめる。 『美羽可愛いー!どうしたの?これ』 「あのね、美代子さんが、」 「昨日ママ友とショッピングに行ったら、すっごく美羽ちゃんに似合いそうだったから買ってきちゃったの」 『えっ、なんかすみません…。おいくらでした?』 「いいのよー、私が好きで買ってきたんだからっ。それより未央ちゃん?」 『…はい?』 ……あれ、なんだろうこの感じ。 満面すぎる笑みを浮かべてて、なんだか嫌な予感しかしない。 「じ・つ・は、未央ちゃんの分もあったりして♪」 『…えぇぇーー!?』 *** 『……なんでこんなことに、…』 「未央姉ちゃん、どうしたのー?」 『あ、ううん。なんでもないよ、草太くん』 手を繋ぎながら、左下で可愛く首を傾げる草太くんにキュンとしながら首を横に振った。 そして、右には美羽と光太くん。二人も心配そうにこっちを見上げてくる。 違うんだよ、みんな。 具合悪いとかそんなんじゃなくて、これから起こることに激しく嫌気がさしてるんだよ。 「あっ、着いたー!未央姉ちゃん早く行こうっ」 『ぅあっ…ちょ、草太くんんん!』 私の手を引っ張り走り出す草太くんに対して、私の足は鉛のように重かった。 お願いだから、そんなに早く私の寿命を縮めないでー! 走った先は、立海大付属高校のテニスコート。 ちょうど練習が終わったところらしく、真っ先に私達に気が付いたのは春菜だった。 「あれー?未央どうしたの?」 『うぅ…春菜ぁ〜…』 「そんな泣きそうな顔で…って、あ!美羽ちゃんとブンちゃんの弟くん達だー」 「よっ!」 「久しぶりー春菜姉ちゃん!」 「こんにちはっ!」 「久しぶりー、こんにちは」 嬉しそうにはしゃぐ美羽達とは反対に、泣きべそかいている私は端から見れば変な光景だろう。 休みの日まで、こんな男がいるところに来たくなかった。 それに、この格好が……。 「随分と顔色が悪いな。このままだと約5秒後に鼻水が出そうだぞ」 『あ、本当ですか。ティッシュティッシュ…………って、ひゃあっ!?』 普通にティッシュを取り出そうとした時、声がすぐ真後ろから聞こえたことに驚き、振り返れば男が立っていた。 怖いっ、普通に怖かった! えーと…確か柳くん、だったよね。 球技大会以来、春菜に何度も教えられたから何とか顔と名前が一致している。 「春菜先輩ー、ベンチにボールペン忘れてましたよー!……あっ、レズの人!」 『…は!?』 私に指さして言ってるから、私のこと…だよね? 『レ、レズじゃないし!』 「え?だって男嫌いなんすよね?」 『そうっ、だけど…!』 そうだけど! イコールで結び付けるのは間違ってる! 切原、くんと一緒にやって来たブン太は横で笑いを堪えていた。 「くくっ……てか、お前その格好どうしたんだよぃ?なんかいつもと違くね?」 『あ、あぅ……』 今まで誰も触れなかったことに、見事にブン太が核心に触れてきた。 そう。 今朝、美代子さんが私に着せた服は小花柄のワンピースで、軽く髪も巻かれてるから、いつもの雰囲気と違う。 普段はショーパン派で、制服以外だとあまりスカートは履かないから違和感MAX。 『み、美代子さんが買ってきてくれたみたいで…』 「ふーん?結構可愛いじゃん。なっ、赤也」 「まぁ、そうっスね。この前より可愛く見えるっス」 『可愛…!?』 「ところで、それ何?」 『え?…あ!これっ、美代子さんから!』 持っていた紙袋を無理矢理ブン太に押し付ける。 てか、可愛いって言ったよこの人達。 でもなんか複雑なのは、相手が男だからだな…。 「これ着てゼリー差し入れしたらブン太を落とせるわよ!」と言われて、家から追い出されたけど…。 私、落とす気これっぽっちもありません。 「…ゼリーじゃん、よっしゃ!」 「差し入れか?わざわざすまんな」 「意外と気が利くんだね、中津川さんって」 『っや、だからそれ美代子さん…』 真田…くんや幸村くんですら、わらわらとゼリーに群がる中。 何故か、仁王くんは私の側にずっといた。 「髪クルクルしとる。ギャップ萌え狙っとるんか?」 『ひっ…!!お願いだから髪触らないでっ、てか掴んでる肩痛いから!』 「だってお前さん逃げるじゃろ」 『ぎゃーー!!』 本気で叫び声を上げたら、草太くんが正義のキックで助けてくれた。 ヒーローだ、この子。 |