私には"可愛げ"というものがない。

それは自分でもちゃんと自覚している。
例え相手が彼氏だろうと、思ったことを素直に言えないのだ。

…いや、彼氏だからこそ無理なのである。







「未央ー!」

『あ、まるい…』

「おい!今"丸い"って言っただろぃー!?」

『言ってないから。あんたが勝手に変換しただけだし』

「………だよな!んなこと言わねーよなっ、未央は俺のこと大好きだもんな!」

『はいはい』



私がそういうと、さっきまでの剣幕はパアッと一瞬でキラキラした笑顔に変わった。

…適当に相槌しただけなのに、よくここまで喜べるな。



こんな扱いなもんだから、周りの人達は本当に付き合ってるのかと半信半疑だ。
私が一番信じられないけど。




『…で、なんの用?』

「今日はもう部活終わりだから一緒に帰ろうぜぃ!」

『まぁ、いいけど』

「ん!」

『?なに、この手』

「手繋ぎてーのっ」

『はぁ』


曖昧に頷くと、それを了解と受けとった丸井はあっという間に私の左手を自分の右手の中に収める。
同時にギュッと握られ、体がほんわか暖かくなった。

季節も冬に向かってるって時期にほんわかするって…。

風邪でも引いたかな?
いや、風邪なら余計に寒く感じるはず。





「――未央!」

『…あ、ごめん。なに?』

「なんだよぃ、せっかく一緒に帰ってんのによー」

『ごめんってば。…で、何だったの?』

「……あの、さ、」




話を聞き出そうとすれば、何故か歯切れの悪い丸井。

本当に何だっていうんだろうか。




「今日、さ」

『うん』

「仁王に言われて気付いたんだけど…」

『うん』

「……未央って、付き合ってから一度も"好き"って言ってくれないよな」

『う……………、…はい?』




"好き"?



『…誰に?』

「俺に」

『誰が?』

「だーかーら!」



ぽけーっとする私に、丸井は私の名前を言いながら指をさしてくる。

人を指さしちゃいけないんだぞ。


…って、そんなことどうでもいいよ私。





『…や、そんな恥ずかしいこと言えるわけないじゃん』

「俺は未央のこと好きだって言ってんのに」

『…っ、』



眉を下げて少し拗ねたような瞳で見据えられ、思わずドキッとした。

か、可愛い…。




『だ…第一、仁王に何を言われてそんな結論に至ったの』

「仁王がさー、今日、"未央はブンちゃんのこと本当に好きなんか?"って言うからさ」

『な…』



思わず、丸井と繋いでいる左手と反対の右手で持っていた鞄を落としてしまった。

仁王のやつ、余計なことを…。



「んで、考えてみたら確かに未央に"好き"とか愛情表現してもらったことねーなって…」

『……』


わなわなと震える私に対して、ブン太は「あーあ」と言いながら落とした私の鞄を拾ってくれる。

いやいや、仕方なさそうに拾ってくれてるけど、そもそも鞄を落としたのはブン太のせいだからね?


全く…なんて質問してくるんだ、この男は。

もう一度言うけど、そんなこっぱずかしいこと死んでも言えないしできるわけない!


「なぁなぁ」としつこく聞いてくる丸井に、私は聞こえぬふりしてスタスタと歩き出す。

丸井には悪いけど、私にはアレが精一杯。
アレって言っても誰にも見せる気ないから、私がどう思ってるかなんて絶対に伝わることはないけど……、…。




「あ、おい!未央………って、携帯まで落ちてるし。鞄落とした時に一緒に落ちたんだなー」


……はて、今携帯って聞こえたような?

まさに今考えていた単語が聞こえた気がして、「まさか」と思いながら後ろをゆっくりと振り返る。

すると、丸井が私の携帯を拾おうとしている姿が見えた。



『ちょ、ちょっと待った!!』

「ん?大丈夫だぜぃ、壊れてねー………、は?」

『あ……』



ご親切に携帯が壊れていないか確かめようとした丸井。
が、待ち受けを見るなりどんどん顔がにやけていくのがこの位置からでもわかる。


うわ……、嫌な予感。

ジリジリと後ろに下がる私。
3秒後には、冷えた身体が十分過ぎるくらいに暑くなっているだろうことは容易に想像できた。





「未央大好きだぜぃ!!」

『く、ぐるしい……』



…でも、この過剰すぎる愛情表現は案外嫌いじゃなかったりして。







んとうはね、

(待ち受けが俺の写真とか、可愛すぎだろぃ!)

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