「ほんま、中津川さんは働きもんやなぁ…」





休み時間、今さっき終わった数学の授業のノートを回収している時に言われた一言。

今まで話したこともない相手にいきなりこんなことを言われたら、誰だってビックリするはず。




『…いや、私数学係だし…。自分の仕事してるだけだよ』

「仕事かて、やらない奴ぎょうさんおるやん?やから、中津川さんはごっつ偉いと思うで」

『はぁ…、』



こんなに褒められると、何て返したらいいのかわからなくなる。

お笑いのノリで返せばいいの?


…だめだ、私にお笑いセンスはこれっぽっちもない。




『わ、私、ノート先生に届けなきゃだからっ。じゃあ!』

「ちょ、中津川さんっ?」


間がもたなくなる前に早くこの場から逃げようっ。

言い逃げるように私は教室を飛び出した。






『はぁっ…ビックリした』


白石蔵之介くん。
この四天王寺中のアイドル的存在だ。
そんな人に話しかけられるなんて、今日の運全部使い果たしただろうなぁ…。




――キーンコーンカーンコーン



『…しまったっ!チャイム鳴っちゃったし!』

……やっぱり、運を使い果たした説は当たっているのかも。











***


『っ疲れたー!』

「なー、でもうちらのグループのチームワーク抜群やったな」

『あははっ、確かに』



体育の後、更衣室で着替えて友達と喋りながら教室に戻る。
教室では男子も既に着替え終わっていて。

ガラッと扉を開けると、今日私の運を使い果たした原因の白石くんと忍足くんが視界に入る。

理由は忍足くんの席が廊下側の一番後ろの席だから。
仲の良い二人は、よくこうやって一緒にいる。




「お疲れさん。今日も女子燃えとったなぁ」

『!う、うん』


まさか本日二度目の話し掛けに、挙動不審になりながらなんとか返事をする。



「ん?白石と中津川さんって仲良いんやったっけ?」

「んー、まぁな」



まぁな、って………今日初めて話したんですけど。



「……あ、中津川さん髪結んだままやで?」

『え?…あ、本当だ』


体育で邪魔だからって結んだの忘れてた。

慌てて高い位置に結い上げたポニーテールのゴムを取る。






――ふわっ…

「…!」


手ぐしで髪を整えつつ白石くんにお礼を言うと、何故か挙動不審に返事をする白石くん。

なんだかさっきの私みたいだなぁ、と思いつつ自分の席へ戻った。







「どないしたん、白石」

「……あかん」

「?何が」

「想像通りすぎて絶頂(エクスタシー)やわ!!」

「あかん。白石が壊れてもうた……」



そんな二人の会話は全く耳に入らずに、私は次の授業の用意をしていた。






それからしばらくが経ち、私の隣にはやたら白石くんがいることが多くなった。



『……』

「でな、そのゴンタクレがめっちゃ手のかかるヤツやねん」

『あの、さ…白石くん』

「?」

『…近すぎないかな、この距離っ…』



いつの間にやら、ジリジリと椅子を寄せてくる白石くんに私は自分の椅子から落ちそうだった。

本当に近すぎる。
ほら、周りの女子達の視線グサグサ刺さってるよっ。




「中津川さん、ええ香りやなぁ思うて」

『人の髪の毛くんくんするの止めてくださいっ!』



ねぇ、この人誰ですか?

ついこの間までドキドキしてたアイドル白石くんは何処へ…。


予想外に白石くんは変態だった。

何だろう、髪の毛フェチ?
それとも匂いフェチ?


どっちでもいいけど、仲良く?なってから白石くんは私の髪の毛に触れたりとスキンシップが激しい。

以前とは少し違うドキドキに、そろそろ心臓がもたない。





『…あっ、忍足くん!お願い、早く白石くん引き取ってって!』

「…し、白石!はよ離れてやらな中津川さんが可哀相やでっ」



休み時間、どこかに行っていた忍足くんが教室に入ってくるなり私は彼に半泣き状態で助けを求めた。

優しい忍足くんは苦笑いを浮かべながら白石くんを引き離してくれて。





『ありがとう、忍足くん…』

「謙也、俺と中津川さんの至福タイム邪魔すんなやー」

「至福タイムなんは白石だけやろ!」



不満そうな白石くんには悪いけど、私はホッとした。


ついこの間まで話したことすらなかったはずなのに、どうして白石くんは私に構うんだろう?





「白石、ほんま最近中津川さんにベッタリやなー」


溜め息混じりに忍足くんが言えば、白石くんはどこかドヤ顔。


…え、なんでドヤ顔?





「ほんまは、中津川さんのこと好きやからー…やったりして、」

『あははっ、それはないよ忍足くん』



そんなことがあったら、地球滅亡するよ。

「せやなっ」と笑い合う私達に対して放った白石くんの言葉は、私達のみならず、クラス全員の目を丸くさせた。






『…え、えっと…白石くん、今なんて……』

「せやから、俺は中津川さんのこと好きやで?あ、LikeやなくてLoveの方な」

『…………え、えぇぇー!?』

「絶対好きにさせたるさかい、覚悟しといてや?未央」





サラリと私の髪の毛の束をすくって口付ける白石くんに、不覚にもキュンとしてしまったことは私だけのヒミツ。


既に白石くんに落ちているのかもしれない。






い香りに誘われ、て?

(この香りは俺だけのもんや)




なんか、もう…すみません。
誰これ?って感じになっちゃいました。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -