『好きです、付き合ってください』




そう言った瞬間、教室内がシーンと静まり返る。

かと思えば、すぐに溜め息と共にいつもの騒がしさを取り戻した。




「…お前さぁ、いい加減飽きねー?それ」

『全く』

「…はぁ」

『…なんで丸井くんまで溜め息をつくの』



溜め息もつきたくなる。

というのも、コイツ…中津川未央がこうして朝一番に俺に告白をするのはもはや当たり前のことで。
朝の恒例行事のようなものになっている。

自分のクラスじゃないB組のヤツらにすら「今日も頑張るねー」なんて声を掛けられてる。

いやいや、頑張るねーじゃねぇよぃ。





「だからさ、俺は中津川と付き合う気はないって言ってるだろぃ?」

『それは昨日までの話でしょ?ほらっ、人の気持ちは天気みたいに変わりやすいって言うし』


ニコニコと笑顔を浮かべながら、机に頬杖つく俺に視線を合わせてくる。


天気って…それはあくまで例え話だろぃ。

…別に、可愛い可愛くないで言ったら中津川は可愛い方に入るんだと思う。
でも俺は告白を受けるつもりはねーし、なんつーのかな…。
毎日毎日言われてるから新鮮味、っつーの?がなくて、今じゃドキドキもしない。




『で、今日の返事は!?』

「ごめん」

『即答!ひどいっ、もっと考えてから答えてよー』

「お前が急かしたんだろぃ!」




キーンコーンカーンコーン


朝のHRが始まる合図の鐘が鳴る。



『あ、チャイム鳴ったから教室戻るね。じゃあね、丸井くんっ』


手を振り、クラスのヤツらに「お邪魔しましたー」なんて言いながら自分の教室へと帰っていく中津川。

数秒後に「廊下を走るとは何事か!たるんどる!」なんて真田の怒声が聞こえてきた。



阿呆だな、アイツ…。









***


『まっるいくーん!』

「また中津川かよぃ…」



放課後。
部活に行く途中、下駄箱で中津川に呼び止められた。

「また、って酷いなぁ」なんて言いながらヘラヘラと笑っている。



「ん?」

よく見ると中津川が鞄を持っていないことに気が付く。




「なに、まだ帰んないの?」

『んー、ちょっと用事があるから…』

「ふーん?」

『部活頑張ってね、丸井くん!』

「おう、サンキュー」



そう言って中津川と別れ、俺はテニスコートへと向かった。


すでにレギュラーの何人かは準備運動を始めていて、コートの周りの女子も集まり出していた。





「そういや……」

「どうしたんじゃ?ブンちゃん」

「あ、仁王」

「またお菓子のことでも考えとったんか?」

「ちげーよぃ!中津川ってさ…」

「中津川?…あぁ、毎朝ブンちゃんに告りにきとる子か」

「アイツっていつも俺んとこ来るくせに、他のヤツみたいにコートの周りでキャーキャー言ってねーなぁって思ってさ」

「…ブンちゃん、中津川のこと話すときニヤニヤしてて気持ち悪いぜよ」

「は?」


ニヤニヤ?俺が?んなわけねーだろぃっ。
ってか確かに気持ち悪りぃ…。




「でもブンちゃん油断しない方がいいぜよ」

「何が?」

「中津川は意外とモテるってことじゃよ」

「中津川がぁ?…って何でそんな話になるんだよぃ」

「…プリッ」


その後は何を聞いても仁王はとぼけているふりをするだけだった。







「っぷはー!」

水道の水で洗った顔を持っていたタオルで拭く。
あー、汗かいた後はやっぱ気持ちいぜぃ!





「………か………です…!」

「……〜から……〜…」





「ん?」


人の話し声がする。

普段ならこんなことしねーけど、本当に興味本位で声が聞こえた方向に近寄ってみた。





『――だから、ごめんなさい』

「でも全然相手にされてないって聞いたよ」

「……」






「あれって、…中津川?」


もしかして、もしかしなくても告られてる最中…だよな。
ふ、とさっき仁王が言っていた言葉を思い出す。


「中津川は意外とモテるってことじゃよ」



「マジ、だったのかよぃ…」

何故か無性に心臓のあたりがモヤモヤする。
でもこれが何なのか、まだよくわからない。





「しかもあの丸井だろ?いつも女子にキャーキャー言われてお菓子ばっか食って…、すぐに捨てられるのがオチだって!」

『……』

「あんな女遊び激しいやつより俺の方が……!」




おいおい、あの野郎言いたい放題言いやがって。

その瞬間、渇いた音が辺りに響き渡った。





『いい加減にして!丸井くんのこと何も知らないくせに…。本人のいない所で悪口言う人、私大嫌いだから』


叩かれた男子は呆然としながら中津川の背を見送っている。




…やべっ、こっち来るじゃん!
まずい、どっかに隠れないと、……。





「……え、?」



中津川…泣いてる、?
いつも笑ってるあの中津川が?
思わず立ち止まった俺と視線がバチリと合う。





『…!丸井、くん…』

「よ、よう…」

『ぶ…部活もう終わったの?』

「や、まだ休憩中…」

『…そ…そうだよね』

「……」

『……』

「……」

『………もしかして、今の見てた…?』

「えっ!や、その…なんだ…」



あからさまに動揺する自分に腹が立った。
見てない、って言うべきだろぃ!



『恥ずかしい所見られちゃったなぁ、…あははっ』

渇いたような笑いに、無理して笑っているのだということが痛いほどに伝わってきた。



「…なんで、泣いてんだよぃ」

『………だって、』

「……」

『丸井くんの悪口、言うから…ついカッとなっちゃって…』



俺の為に泣いてるのか。
しかも自分の悪口言われたわけじゃねーのに。
不謹慎だけど、何故か嬉しいと思っている自分がいて。


モヤモヤしていた原因が、今わかった気がする。





「…中津川、一度しか言わねーからよく聞いとけよぃ」

『?』

「俺は――…」






からきみに告白します

(本当はずっと前から好きだぜぃ)



Title by:「確かに恋だった」

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