第一印象は馬鹿








あれから私は、立海に入る為に塾に通ったりブンちゃんに勉強を教えてもらったりして。

あっという間に半年が過ぎ、季節は春を迎えていた。







「おーい、準備できたかー?」

『ち、ちょっと待って!上手くネクタイ結べなくて…』

「もう、あの子ったら中学生になってもまだまだそそっかしいんだから」

『お母さーん、これで結び方合ってる!?』

「はいはい、大丈夫よ。ごめんなさいねブン太くん。待たせちゃって」

「大丈夫っすよ、今日は入学式で朝練もないし。ん、うめぇ!」

『お待たせ!ブンちゃん』



ダイニングでお母さんの作ったホットケーキを食べているブンちゃんの前で、クルッと一回転する。


『どうどう!?似合ってる?』

「おー!ちゃんと立海生になってるぜぃ」

『ありがとう!』


パリッとしたブラウスに皺一つないブレザーとスカート。
改めて鏡の中の自分を見ると、嬉しくて顔が緩むのがわかった。


無事に立海大付属中学校に合格した私は、今日から晴れて中学一年生。楽しみな気持ちと少しの不安がなんだかくすぐったい。




「ほら二人とも、そろそろ出た方がいいんじゃない?」

「やっべ!行くぞ、未央っ」

『あ、待ってよ!――じゃあ、行ってきまーす』


頬いっぱいにホットケーキを詰め込んだブンちゃんに促され、私も慌てて家を飛び出した。





『あー、緊張してきた…』

「?なんでだよぃ」

『だって友達出来るかなぁとか、友達出来るかなぁとか…』

「同じこと二回言ってんぞ…」


だって、新しい環境に変わる時ってそういうのが心配じゃんか。
こういう時は飴でも食べて落ち着こう!
鞄からポーチを取り出す。

入学祝いに、ってブンちゃんがプレゼントしてくれた、飴を入れる用の赤を基調とした花柄のポーチ。




「おっ、早速使ってくれてんだ?」

『もちろん!飴入れるのにピッタリな大きさだし』


ブンちゃんがくれた物だし!



『今日は何味食べよっかな、ぁ…………っわ!?』

「未央!?」



飴を取り出そうとした時、後ろから誰かにドンッ!と肩をぶつけられて。

持っていた飴がいくつか地面に散らばり落ちた。





『あぁーーーっ!?』


飴が!!
私の大切な飴がぁっ!

誰だっ、ぶつかってきたやつ!!



キッとぶつかってきたであろう人を睨もうとすると、当の本人は随分と先まで走っていて。
かろうじて見える後ろ姿を目に焼き付ける。

もじゃもじゃした頭に、……。




「ふぃー、落ちちまったけど袋に入ってっから食えるぞ、……って、未央?」

『ねぇ、ブンちゃん。あの人が持ってるのってラケットバッグじゃない?』

「んぁ?…本当だ。見た感じ未央と同じ一年っぽいし、テニス部入部希望のヤツなんじゃね?」

『…ふーん…』


ということは、ブンちゃんの後輩になるかもしれないってことで…。

……うわ、なんか嫌だなぁ。




「なーなー!落ちたやつ食わないんなら俺が食ってもいい?」

『ブンちゃん、意地汚い…』

「意地汚いとか言うな!」



相変わらず食い意地が張ってるなぁ、なんて考えながら歩いていると正門の周りに人だかりができているのに気が付いた。



「…ん?なんだぁ?」

『何だろう?もうちょっと近付いてみようっ』


そう言って人だかりを掻き分けながら近付くと、何と正門の上に人が立っていた。




「この学校で…」



『あれ、あの後ろ姿……』










「全国No.1になったテニス部に入って…、


――俺はNo.1になるっ!!!」





堂々と胸を張って叫ぶあの後ろ姿は、さっき私にぶつかってきた人に間違いなかった。





「こぉーらー!!そんな所で何をしているっ。さっさと降りんかーっ!」

「げっ!?す、すいません!!」




ぶはっ!と笑い出すブンちゃんの隣で、私は呆然と慌てて正門から降りる彼を見ていた。




……馬鹿なのかな、あの人。



それが、私の彼への第一印象だった。







  


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