王道な展開 『……』 こんな状況にも関わらず、私の頭は呑気なことを考えていた。 こういうことって実際にあるんだー…と。 そして数時間前のことを思い出し、やっぱり誰かに言ってから来れば良かった…と。 *** 『切原くん、早く早く!急がないとHRに遅れちゃうよっ』 「っつー……殴られた所が痛ぇんだよ!」 『それは自業自得だよ』 朝練に遅刻してきた切原くんは、真田先輩にこってり説教された。 一応手当てしてあげたけど、本当に痛そうだなぁと考えながら下駄箱を開けると、ひらりと紙が落ちてくる。 『?なんだろう…』 「どうしたんだよ」 『なんか下駄箱に入ってて………、あ』 「あ?」 『ラブレターだ』 「ラ、ラ、ラブレター!?」 うーん、切原くんとこのくだり2回目だなぁ。 差出人は、しかも女の子から。 なんとなく嫌な予感がして、切原くんに見られないようにしながらこっそり手紙を開けた。 内容は、昼休みに体育館裏に来いというもの。 「なんだよっ、中津川ってモテんのか!?」 『うーん、ある意味モテてるのかも』 「んなっ!?」 隣でギャーギャー騒ぐ切原くんを適当にあしらい、余計なことを聞かれないうちに私は教室まで走った。 本当にある意味でラブレターだけど…きっと、良くない呼び出しだろうなぁ。 ということで、昼休み、一人で体育館裏に来て今に至る。 『(やっぱり嫌な方の呼び出しかぁ)』 「ちょっと、聞いてる?」 『あ、はい。聞いてます』 「だからね、一年のくせにマネージャーとかでしゃばんないでくれない?」 『でも…一年だからこそ今からマネージャーやれば経験が、』 「あーもう!そういう難しいこと言ってんじゃないっつーの!」 「テニス部はみんなのモノなの!だからアンタ目障りなのよっ」 『……』 先輩らしき人達は、要は私にマネージャーを辞めろと言いたいらしい。 凄い剣幕で、少しその迫力に押されてしまう。 人気テニス部のマネージャー。 やると決めてから、こういうことは少なからずあるとは思っていたけど…。 本当にあるとは自分でもビックリ。 一方的に向こうが喋っているので、口を出す暇がない。 どうしようかな…。 そんなことを考えていると、視界の端で何かが動いたような気がした。 「なんじゃ、告白じゃなか…」 「ちょっ、丸井先輩重いっス!」 「重いだと!?」 「ブンちゃん声がデカイぜよ」 「バレたらどーするんスかっ」 『……』 うーわー…。 三人とも、木に隠れてるつもりみたいだけどバレバレだよ、アレ。 しかもブンちゃんまでっ。 きっと、ラブレターなんて言ったから切原くんがブンちゃん達誘ったんだろうけど、よく場所わかったなぁ…。 っていうか、覗き見するぐらいなら助けて欲しい。 『……はぁ』 「ちょっ!何溜め息なんかついてんのよっ」 『あ、いや…』 やばい。 切原くん達を見つけて思わずついた溜め息のせいで、更に怒りを買ってしまった。 えーと、こういう時はなるべく穏便に済まさなくちゃっ。 ………あっ! 『先輩方っ、あんまり声張り上げると喉痛めますよっ!はい、これあげますからっ』 スカートのポケットに常備していた飴を先輩達に差し出す。 「……ふ、ふざけてんの?」 「ってか馬鹿にしてる?」 やばいやばい。 ますます怒りを買ってしまったみたい。 え、なんで? 「ぶはっ!さすが未央だなっ」 「くくっ、相変わらず笑わせてくれるのぅ」 「アイツ…飴あげれば何でも大丈夫だって思ってるよな、…ってか、そろそろ助けなくていいんスか!?」 「だってよー、下手に俺らが手ぇ出すともっと未央に怒りの矛先が、って仁王が言うから。俺だって未央助けてーよ!」 「よう考えてみんしゃい、アイツらは未央にテニス部のマネージャーを辞めさせたくてこんなことをしとる」 「……」 『や、馬鹿になんてしてませ……』 「飴なんかで済まされると思ってんの!?」 ……カッチーン。 今、頭の中の何かが確実にキタよ。 『…今、飴"なんか"って、言いました?』 「えっ…」 『飴はっ、当時は水飴だったけど西暦720年には既に存在してたと言われる程、古く歴史のある食べ物なんです!あと、現代では飴細工が大道芸の演目の一つとして取り上げられてるしっ!それからそれからっ…』 「な、なんなのよこの子…!?」 「飴について熱く語ってるんですけど…っ」 引き気味の先輩二人に飴の良さを語っていると、「ぶはっ!」と思いっきり誰かが吹き出した。 視線を向けると、また別の先輩二人。 え、どうしよう…。 まさかこの人達も仲間で、これからリンチされちゃうんじゃ……。 本格的にピンチかもしれません。 |