マネージャーと渡辺くん








「マネージャー、ドリンクは?」

『あ、ここですっ。はい』

「ん、ちょうどいい甘さだな」

「マネージャー!悪いけど、倉庫からもう一籠ボール持ってきてもらっていいか?」

『はいっ、今行きます!』





テニス部マネージャーになってから一ヶ月以上が経った。

仕事にも大分慣れてきて、"マネージャー"と呼ばれることにも違和感がなくなってきた。





『…っと!やっぱり重いなぁ、この籠』


籠いっぱいに入ったボールが零れないよう引きずり出すと、後ろから手が伸びてくる。




「相変わらず、未央は一人で頑張ろうとすんなー」

『…あ、ブンちゃん!』

「これ持ってけばいいのか?」

『うん………って、ダメダメ!これ私の仕事だしっ』


籠を持ち上げようとしたブンちゃんから籠を奪い取る。

う、やっぱり重い…。



「じゃあ半分ずつならいいだろぃ?」

『……ありがとう、ブンちゃん』


きっと私が意地でも籠渡さないってわかってるから、半分って言ってくれたんだろうな。

こういう優しいとこ、ブンちゃんらしいなぁ。


二人で持ち手を半分ずつ持って、コートに向かう。
すると、私は知らず知らず笑っていたらしく、どうしたのかと聞かれた。




『えへへっ、ブンちゃん大好き!』

「なんだよぃ、急に?」

『だってー……』


自慢の大好きな幼なじみだもん、と言おうとしたら仁王先輩に呼び止められた。



「ブンちゃん、向こうで幸村が呼んどったぜよ」

『ブンちゃん何したの?』

「えー何もしてねぇはずだけど…」

「部室の菓子がどーのとか言っとった」

「…げっ!?まさかロッカーにお菓子隠してたのバレて…!」


やべー!と言いながらブンちゃんは幸村先輩の元にダッシュしていった。

そういえばこの間、部室にお菓子を溜め込むなって幸村先輩と真田先輩に怒られてたっけ?
まぁ、籠は言われた場所に持って来れたし、ありがとうブンちゃん。後で飴あげるねっ。




「…ピヨッ」

『ピヨッ?………あっ、もしかして仁王先輩騙したんですか?』

「さすが未央じゃのぅ。バレとったか」



仁王先輩が意味不明な言葉を発する時、何か嘘をついてる時があることに最近気が付いた。
前から思ってたけど、"詐欺師"だなんて言葉は仁王先輩の為にあるんじゃないかな。



「ところで、さっき"大好き"とか聞こえたんじゃが」

『え?あー、確かにブンちゃん大好きって言いました』

「まーくんは?」

『まーくんって……仁王先輩も普通に好きですよ』

「……(普通、か)」

『仁王先輩?』

「お前さん…そういうことは、あんまり言わない方がいいぜよ」


そういうこと、って?
大好きって言うことなのかな。

首を傾げていると仁王先輩は頭を撫でてから練習に戻っていった。




『…っあ!そろそろタオルが洗い終わったはず!』

仁王先輩の背中を見送りつつ、私も仕事に戻った。










***


「どう?もうマネージャー慣れた?」

『うんっ、バッチリ…とまではいかないけど。美月もバレー部慣れた?』

「そうだなぁ、先輩厳しいけど、バレー自体は楽しいかな」

『そっか』


私もマネージャーの仕事は想像したよりは大変だけど、ブンちゃんや先輩達のサポートができるから楽しい。

そして中庭でお弁当を食べながらお喋りするこの時間は、結構好きだったりする。



『葉月は結局部活入らないの?』

「だって部活とか面倒、……」

「そんなこと言わないで、葉月ちゃんもテニス部のマネージャーやろうぜ!」

『あ、渡辺くん』



葉月の言葉を遮って話に入ってきたのは、渡辺くん。
同じテニス部一年のイケメン。



「また来た…」

「"また"とか言わない!俺は葉月ちゃんのいる所ならすぐわかる!」

「うわ、それストーカー…」

「ストーカーとかキモいから止めて」

「ストーカーと言われようが、俺は葉月ちゃんラブ……ぐはっ!」



…あ、葉月に殴られた。

渡辺くんは入学式の日に葉月に一目惚れしたらしい。
私がマネージャーになって、葉月の友達だということを知ってからは、こうやってちょこちょこ葉月にアタックし玉砕している。

顔はかっこいいのに、こんな性格だから残念な人だ。





『ね、渡辺くん』

「ん、なんだ?中津川」

『葉月と美月、双子だから見た目似てるけどどうして葉月なの?』

「なんでって…葉月ちゃんはなぁ、その美しい見た目から漂う気品と瞳の中に秘めた冷たさ!全部が俺のツボなんだよなー」

『…はぁ、』

「だから気品の欠片もない相川姉には全く魅力を感じねー………ぐふっ!」

「ちょいちょい失礼なんだけど!」



あ、今度は美月の右ストレートが入った。

えーっと、なんというか…聞かない方が良かったかも。



とりあえずわかることは、渡辺くんはMっ気ありのやっぱり残念なイケメンってことだ。







  


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