ケーキとテニス部![]() 『……え』 「ごめんね未央ちゃん、ブン太まだ帰ってきてないのよー」 4月20日、土曜日。 今日はブンちゃんの誕生日です。 お菓子が大好きなブンちゃんだから、去年と同じく本を見ながらケーキ作ってプレゼント用意して。 部活から帰ってきたブンちゃんを驚かせようと、突撃したものの当の本人はまだ帰ってきていなかった。 …よ、予想外な展開。 「あ、未央姉ちゃんだー」 「未央姉ちゃん、それケーキ!?甘い匂いがするーっ」 『あ、草太くんと光太くん』 どうしようかと考えていると、玄関の奥からバタバタと走ってくる二人。 ブンちゃんの弟の8歳・光太くんと5歳・草太くんである。 さすが兄弟なだけあって鼻が利き、ケーキケーキ!と騒ぐ可愛い二人に心が揺らぎながらも、「ブンちゃんが帰ってきたらね」と言って、とりあえず一旦家に戻った。 うーん、どうしよう…。 『まだ、練習してるのかな…』 辺りが暗くなり始める中、未だ手元にあるケーキの箱を見ながらポツリと呟いた。 *** 『まだかなーまだかなー』 リビングのソファーでゴロゴロしながらブンちゃんの帰りを待っていると。 なんだか外から話し声が聞こえた気がして。慌ててソファーから起き上がった。 私のブンちゃんレーダーが反応してる!← 小走り気味に玄関へ行き、ドアを開けた。 『ブンちゃん…っ!』 その先に見えたのは……。 「やぁ、未央」 「そのような薄着では風邪を引くぞ」 「自己管理を怠るとはたるんどるっ」 「いえ真田くん、未央さんはまだ風邪を引いているわけではないのですから…」 「相変わらず駆け付けるのが早いのぅ。ブンちゃんレーダーでもついとるんか?」 『せ、先輩方……』 テニス部の先輩たちがいらっしゃいました。 な、なんでここに?? 「あっ、未央!なんで出てくるんだよぃ!」 『え…』 ブンちゃん酷い。 「悪い、未央。俺じゃ止められなかった…」 『…ジャッカル先輩?』 ひどく疲れた様子のジャッカル先輩に、ますます疑問が深まる。 「……よぉ」 『切原くんも!…本当にみんなどうしたの?』 「そんなの俺が聞きてーし!」 『…えぇー…?』 逆ギレされても困るんだけど…。 助けを求めるようにブンちゃんを見ると、両手を合わせてペコペコ謝っている。 本当にわけがわからない。 「悪ぃ!去年、未央の手作りケーキ食ったって自慢したらみんな着いてきちまって…」 「未央の性格上、今年もケーキを作る確率89%」 『うっ…』 妙にリアルな確率が怖い…。 た、確かにその通りなんだけれどもっ…! 「あまりにもブン太が誇らしげに自慢するからね、興味があるんだよ」 「俺らもお前さんの作ったケーキ食べてみたいナリ」 『食べてみたいって、…』 本通りに作ったものだし、ブンちゃんの作ったケーキの足元にも及ばないんですけど…。困り果てていると、今まで黙っていた切原くんが大声を上げた。 「近所迷惑というものを考えんか!」 「真田、君の声も十分大きいよ。少し黙ろうか」 「うっ、すまん…」 「どうしたのですか?切原くん」 「せ、先輩たち…ただコイツのケーキが食いたくて来ただけってことッスか!?」 「まぁ…そういうことですね」 「おっ、俺!仁王先輩に、これから行く所に先輩たちの強さの秘密がある…って言われたから着いてきたんすよ!?」 「仁王くん!また騙したんですか?」 「…プリッ」 ニヤリと笑った仁王先輩に、切原くんは「騙したんすか!」と怒っている。 「お、おい…このままここにいても本当に近所迷惑だと思うぞ」 『そっ…そうですよ。ジャッカル先輩の言う通りですっ』 「じゃあ未央のケーキを食べさせてもらえるのかな?そしたら俺たち帰るんだけどな」 『…だ、だめですよ!あれはブンちゃんの為に作っ……』 「……未央?」 あぁ…。 これだけは譲れまいと思ってたけど……、きっとケーキを食べるまで先輩たちは本当に帰らないんだろうな…。 幸村先輩の諭すような微笑みに、私は全てを悟った。 『………よ、良かったら皆さん、ケーキ食べていってください…』 八人で食べたケーキは当たり前だけど一瞬で無くなり。 (結局、切原くんも食べていったし) 光太くんと草太くんの分が無くなってしまい大泣きされたので、慌ててもう一個ケーキを作る羽目になってしまった。 …先輩たちのこと好きだけど、今日は恨んでもいいですか? |