ラブレターは果たし状







「中津川未央を呼んでもらいたいのだが」






真田先輩が私を訪ねてうちのクラスにやって来るなり、一気に女の子達が騒ぎ出した。
後ろには幸村先輩もいる。

一年生の間でも既に有名人だ。



「きゃーっ、幸村先輩と真田先輩だ!」

「こんな近くで幸村先輩見れるなんてっ」

「ちょっと未央ちゃん!あの二人と知り合いなの!?」

『え、あ…うん。まぁ、』


あまりの騒ぎっぷりに圧倒されながら、突き刺さる視線の中、真田先輩の元に近付く。




『ど、どうしたんですか?一年生の教室に来るなんて…』

「うむ。これをあの一年に渡しておいてもらいたくてな」

『あの一年?』


差し出された紙を受け取ると、そこには"果たし状"と書いてある。



『果、たし状…』

「ふふ、今日あのもじゃもじゃ頭の子が真田に渡しに来たんだよ」

『…切原、くんが?』


自分で言っておいて、出てきた名前にドキッとする。
あ、ちなみに恋愛的なものじゃないよ。
思い出してしまった的な後悔のドキッだよ。

あの時、飴を差し出しておいて上から目線みたいなこと言っちゃったから。
実際、切原くんにも「あんた誰?同情とかいらねーから!飴とかふざけてんのか」って言われた。

決して同情とかじゃなかったんだけどなぁ…。




『あ、でも何で私に?真田先輩から直接渡せば…』

「その果たし状にはね、今日の放課後3時にもう一度試合しろっていう内容が書いてあったんだ。全く、誰に指図してるんだろうね」

『……あ、はは…』



怖いです、幸村先輩。
黒いです、その笑顔。


結局、幸村先輩の笑顔に何も言うことができなくなり。
何で果たし状を返すのか、という疑問は宙に浮いたままになってしまった。









***


試合開始から10分、いや5分も経っていない時。



『!目が…、』

自分でも目を疑った。
――切原くんの目が、真っ赤に充血していたから。



最初は、あの真田先輩相手に凄いと思った。
これでも一年間、ブンちゃんを観にここへ通って、真田先輩のテニスの強さは知っていたつもりだから。
でもその実力の差はどんどん開いてきて…。

そんな時、ゆらりと立ち上がった切原くんの目は赤く染まっていたのだ。




「アンタ、潰すよ…」



何かのスイッチが入ったように、目で見てわかるほど先程とプレイが変わったように思えた。





それから何回かラリーを繰り返し。
これ以上やっても切原くんの負けだと判断した幸村先輩によって、試合は終了された。


切原くんはやっぱりテニス部に入部し、真田先輩たちを倒すと意気込んでいるらしい。






部活終了後、私はブンちゃんの元へ駆け寄る。


『ブンちゃんお疲れ様!ねぇ、切原くんは?』

「アイツならもうすぐ来ると思うぜぃ?どうしたんだ?」

『ちょっと渡したい物があって』


昼間に真田先輩から預かった物をまだ渡せていなかったことに気が付いたんだよね。

チラッと見えた紙に、何故かブンちゃんが慌てふためく。



「ちょ、!まさかそれ、ラブレター…とかじゃないよな!?」

『はぁ?そんなわけ、……あっ、来た!』

「おい、未央!」



わけのわからないことを言っているブンちゃんの横をすり抜け、制服に着替えた切原くんに走り寄る。




『切原くん!』

「あ?アンタ…あの時の!」

『あの、今日はお疲れ様。これ渡すの忘れてて…』

「は、?」


後ろ手に持っていた紙を差し出そうとすると。




「…んなっ!?お、俺っ今彼女とか恋愛とか興味ねぇから!ラブレターとか困るし!!」

『…はい?』



なんか…ついさっきも同じ単語を聞いたような。


『違うよ!ラブレターなんかじゃなくてっ。……よく見て!』

「え、?………"果たし状"って、これ俺が書いたやつ!なんでアンタが!?」

『真田先輩に渡してくれって頼まれたの』



疑問符を浮かべながら手紙を開く切原くん、だけど。
開いた瞬間ピシッと表情が凍り付いていた。

気になって、私もこっそり手紙の中身を見てみると…。






……まぁ、見事に間違いだらけの漢字を赤ペンで直されていた。


幸村先輩の名前が"辛村"になっていたり、午後が"牛後"だったり…。
真田先輩が果たし状を返す意味がわかった気がした。





『…あの。漢字、もっと勉強した方がいいんじゃない?』

「…っ、うるせー!!」



私と切原くんが初めてちゃんと会話した時だった。







(そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかった…!)

『一年の中津川未央っていうの。あ、飴食べる?』

「お前、飴しかないのかよ!」







  


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