未来




「お嬢さん、お一人ですかィ?」


わざとらしい柔らかさを含んだ声と共に、古びたベンチがギシリと鳴いた。さっきまで空気しか乗せていなかった筈のそこに、まるで対称的な重苦しい黒が腹立たしい程偉そうに鎮座している。


「……懲りない奴アルなオマエも。サボリならもっと別の見付かりにくい場所にするヨロシ。またニコチンマヨに怒られるダロ」
「サボリじゃなくて休憩でさァ。此処が一番落ち着くんでねィ」


……“休憩”やら“落ち着く”やら、顔を合わせる度喧嘩になる私が居ることの分かり切った場所にわざわざ来て言う言葉じゃないだろう。──そう思っていたのも、もう随分前のことだ。以前のような喧嘩をすることは、数える程しか無い。


「……髪、綺麗に伸びるモンだな」


腰まである私の髪を掬い上げ、沖田はまじまじとそれを見つめた。突然何かと思わない訳ではないけれど、敢えて突っ込むこともしないでおいた。最近のコイツは、私によく触れる。


「髪は女の命言うネ。大切にするのは当然ヨ」
「そうだな。……可愛い」


スローな動きで橙色に口付け、私にとろりと熱っぽい視線を向ける。首から顔に架けてがざわりと泡立ち、一気に血が巡る。ああ、暑くて仕方が無い。


「抱き締めても良いかィ?」
「なんでいきなりそうなるネ」
「……なんとなく」
「セクハラだナ」


それでもやっぱり沖田は沖田。白けた顔でうんざりと溜息を零し立ち上がった私を一瞥すると、早速ベンチに寝転がりアイマスクを装着、静かに寝息を立て始めた。結局は私を退かす為の作戦だったのかと思うと、コイツに少しでも動揺した自分が情けない。


「……なァ」
「っ!?お、脅かすなバーカ!起きてたのカヨ!?」
「ん、悪ィ。寝ようと思ったんだけど、ちょっと」


のそりと起き上がり眠そうな目を擦ると、小さく手招きをして私を呼ぶ。無視をすればいいのに、近頃のコイツの別人ぶりに感覚が麻痺しているのか勝手に動く私の足。──知ってしまった。ぎこちなく触れる手や、昔より少しだけ優しくなった名前を呼ぶ声、たまに見せる、油断したような笑顔。その全部に、素直じゃない自分の中の素直な私が反応するから。


「なんだヨ」
「……抱き締めて、良いかィ」
「んダヨしつけーナ!欲求不満かコノヤ……」


──傘が地面に放り出されると、図ったように太陽を隠す雲。薄暗くなった視界には、陰でくすんだ蜂蜜色。刹那に呼吸を奪われて、爪先立ちを強いられた身体は固く拘束されたまま。



「なァ、いつになったら俺のモンになってくれんの?」



抱き締められて、吐息混じりの声に小さく肩が震えた。


「は、何言って……」
「これでも充分待ったんだぜィ?過保護な天パがやたらと警戒する所為でロクに手出し出来やしなかったからなァ」


ぬいぐるみでも置くように私をベンチに座らせると、拾い上げた傘を差して背もたれに手を掛ける。真正面で屈み込む沖田の無駄に整った顔、近過ぎる距離に逸らせない視線。


「もうお互い良い大人。そろそろ始めましょうや、『オトナ』な付き合い」


──そう言ってまた勝手にちゅーしやがったクソサドヤロー。離れた隙に耳元で“好きだ”、なんて囁いたソイツは。









(……顔、赤いヨ)

(るせぇ。……アレだ、テメェのチャイナ服の色が反射して)

(今日のは青、アル)

(…………)

(ぷ。まだまだお子ちゃまネ)

(……よーし見せてやらァ。大人のマグナム)

(黙れ粗チン)




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3000打キリリク、めぐさまへ捧げます。リク通りじゃなくてすみません…!幸せそうというか当社比でほのぼの?未来は沖→→←神なイメージ。




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