「……おき、た」


膝に手を付き息を切らしながら、上目の赤眼が銀ちゃんを鋭く睨む。小刻みに震える銀ちゃんの身体は、この腐れ天パが爆笑していることが丸分かりだ。


「おいセクハラ教師。さっさとその似非チャイナから離れたらどうですかィ」
「はいはい言われなくとも。ただしセクハラっていうのは取り消そうか」
「今すぐ此処から消えてくれんならそうしてやりまさァ」
「横暴だなー、もう。俺一応先生なんだけど」


苦笑しながら私を引き剥がした銀ちゃんは、「頑張れよ。」と耳元に残し去っていった。そろそろ朝のホームルームの時間の筈だけど、それについては何も無し。銀ちゃんは本当に教師なのだろうか。


「……ムカつく」


ぼそり、何処か恨めしげに落ちてきた呟きは、声の主なんか確認の必要も無い。気まずい空気に耐えきれず私は大きく足を踏み出した。勿論、逃げる為に。


「っ!!」
「……逃げんな、アホチャイナ」


がっちりと掴まれた手首が痛い。
そこから熱がぐんぐんと上昇してきて、咄嗟に振り払うも敵わず。熱は私の全身を包み込んだ。


「っ放せヨ!!」
「誰がテメェの言うことなんて聞くかバーカ」


頭を強く押さえ付けられ、息苦しさに涙が滲む。窒息を恐れ息を吸い込めば、流れ込んでくるのは沖田の匂い。心臓がバクバクうるさくなった。


「チャイナ」
「も、嫌アル!」
「なァ、聞けって」
「オマエとなんて口も利きたくねーんダヨ!からかうのも大概に」


──罵倒は足場を失う。

呼吸を掠め盗られ、見開いた目に映るのは影を伸ばす伏せた睫毛。
眉間に寄った皺が苦しげで、有り得ない暴挙に反応することすら出来なかった。



「一目惚れ」



近距離での囁きは、震えている所為で最高に格好悪い。


「……って言ったら、笑うかィ」


それなのに思考が一気にお花畑な私は、もっと格好悪いかもしれない。


「廊下ですれ違って、派手な色だからお前、そんときはただ偶然目に入っただけなんだけど」


余裕が無い、そんな様子が見て取れる表情に込み上げてくる笑いを必死に押し殺す。
私は沖田なんて見た覚え無い、って言ったら泣くかもコイツ。


「興味持って、……観察?してたんでィ」
「……キモイ」
「あー、俺も途中で思った」


苦笑する姿に心臓が痒くなった。
微かに赤い頬がらしくなくて、いつもなら吐いたっておかしくない状況なのに大人しく胸に収まる自分が不思議だ。


「けどなんかもう、目ェ離せなくて。……それが今までの猛アプローチに繋がる、と。」
「ただのセクハラとしか思えなかったアル。てかセクハラだったネこの発情期ヤロー」


やっぱりキモイアル。そう言って離れようと伸ばした腕をまた捕らえられ、嫌と言う程きつく抱き締められる。
ここまで来たらもう私を殺そうとしているとしか思えない。全身骨折狙いなんじゃないか?


「うがぁ!痛いアル!!」
「俺の方が痛いでさァ。決死の告白軽くあしらいやがったんだ、純情ハート傷付けた罪は重いぜィ?」


頬にあったかくて柔らかいものが触れた。その熱はまた唇に触れた。



「一生俺の傍に居て償え、バ神楽」



何処の王様気取りか、上から目線の命令口調。ムカついたから足を思いっきり踏みつけて、苦痛に歪む顔を鼻で笑ってやった。



「……私に指図なんて何回生まれ変わっても早いアル、ばーか」



少し身を屈めたヤツの唇に噛み付いてやったのも、ただの仕返し。









(可憐な美少女を泣かせた罪だって重いんだぞ、コノヤロー!)







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移転前リク『先輩×後輩』
今更消化すみません。


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