──親子のよう。


少女と男の関係を、周囲はそう言った。





「銀ちゃーんっ!!」
「はいはい可愛い可愛い。神楽ちゃんはまだ餓鬼だねェぐふぅッ……!!」
「銀ちゃんみたいになるなら大人になんてならなくて良いアル」
「ちょ、顔面パンチはいくら大人な銀さんでも泣くよ!?」



──夕暮れの土手を仲睦まじく歩く二人。その背中を睨み付け忌々しそうに舌打ちをするは、夕日によって明るみを帯びた蜂蜜色。


「気に食わねェ……」


ついさっきまで得物を手に自分だけを見つめていた碧眼は、その声にすぐさま反応し銀髪を映し出す。競り合いの熱も冷めないままに繰り出した一突きはひらりと躱され、少女は此方を一度も振り返らずに走り去る。


“次こそは決着着けてやんヨ!!”


お決まりの捨て台詞、まるで次に会う約束を交わすような言葉も、銀髪が迎えに来た日には聞くことも無い。


「……あーあ、不毛だよなァ」


いつだってアイツは旦那を追いかけて、俺は……──。



「総悟テメェェェ!消えたと思ったらこんな所で何やってんだコラァ!!」
「……土方さん。俺ァ今物凄く虫の居所が悪いんで、さっさと消えてくだせェ。もしくは死ね」


怒号と共に現れた土方には目も呉れず、沖田はただ鬱陶しそうに紫煙を払う。


「んだお前、おっかねー顔しやがって……」


沖田の視線の先の影を見付け不機嫌な部下の原因を悟った土方は、面倒そうに頭を掻いた。


「また万事屋に嫉妬でもしてんのか?テメェが心配するような関係じゃねえだろ、どう見ても」
「……別に。何も心配なんてしてやせん」


チャキンと刀を収め、小さく息をつく。

……正直、もう振り回されるのは御免蒙りたい。そう思いながらも関わりを断つことが出来ずに居る自分が、情けなかった。

いっそ殺してしまいたい、あの銀髪を。

しかしそれによって一番に悲しむのは、やはり少女なのだ。


何処までも、……敵わない。



「サドーっ!」
「!」



呼び掛けに応えるよう身体を反転させた沖田。真っ赤な背景の中大きく手を振る少女が、陰を纏いながらも確かにこちらを向いていた。


「次こそ決着アル!逃げんじゃねーゾ!!」


じゃーナ。……最後に一言そう付け足して、神楽はまた銀時の背中を追い駆け出す。

──絶対の法則が崩れた瞬間、だった。




「……臨むところでさァ、クソチャイナ」




嬉しそうな呟きを、土方は聢と聞いた、が。……敢えて反応はしないでおこう。解りやすいクセに指摘されることを嫌がるコイツは、すぐさま命を狙ってくるだろうから。



「何を笑ってらっしゃるんで?土方さんよォ」
「……いや、別に?」
「あ、空飛ぶマヨネーズ」
「何ィ!?何処に……」
「グッバイ副長」
「え」





(今はまだ、この関係のままで)






(何処に隠してたんだよそのバズーカ……)

そんなツッコミもままならないまま、土方の意識は途切れた。







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