若干未来








腑抜けた白髪頭にしがみつく細腕を引き剥がして、何処からあんな怪力が出るのかと疑いたくなる程の小さい身体を抱き締めて、コイツは俺のだ、そう言って深く口付けて。そうやって素直になれたならどれだけ心が晴れるだろう。

──いや、いつまで経っても晴れやしないか。

あの兎は俺を受け入れはしないから。





「ね、キミ一人?」
「一人だったらなんか悪いアルか」
「違う違う、そんなんじゃなくてさ、一緒に遊ばない?」
「お断りするネ。さっさと消えるヨロシ」


髪が伸びた。
背も伸びた。
まな板が立派な成長を遂げた。

──言い寄る害虫が、増えた。


「そんなこと言わずに──……」
「はーいそこの馬鹿そうな野郎、なんか目障りだから逮捕ー」


ピルルルーっと気の抜けた笛の音と共に近付いたものの、沸き立つ怒りはどうにも収まりそうにない。


「……サド」
「警察の出る幕じゃないでしょー。邪魔しないでくれません?」


頭の悪そうに笑って、野郎はしっしと手を振る。真選組を知っていてなおこんな態度とは恐れ入る。
粉を舐めきりふやけきったものにタバスコを染み込ませた、アンハッピーターン改を贈呈してやろうか。


「そこのマウンテンゴリラは嫌がってますぜ。他当たんな」


──ふと、違和感。

ここでいつもなら掴みかかってくる団子頭は、俯き加減に黙ったままだった。


「ゴリラ?女の子に向かって酷っ!ねー、お嬢さん?」


馬鹿男はチャイナの肩を抱き、その顔を覗き込んでこれまた馬鹿っぽく呼び掛けた。



────ぷちん。



気が付くと、白い肌に触れていた汚い手を掴みぎりぎりと腕を捻上げていた。


「っ痛ェっ!!は、放……」


要望通りに解放し、地面へと放り投げてやる。無様に倒れ込んだ男の髪を鷲掴み、涙なんかを浮かべている情けない面を晒して言い放つ。


「解らねえか?コイツは俺の、そう言ってんだ」
「ッヒ……!!」


俺としては極上の笑顔だったつもりだが、相手方はそうではなかったようで。瞬時に顔を青くして逃げていった。


「……ハァ。ったく、てめえも何生意気にナンパなんかされてんでィ」
「…………」
「さっきからどうした。あの日か?」
「……違ェヨ、バカ」
「もしかしてあんなナンパ野郎にビビっちまったのか?それともアレか、王子の登場にときめいたか」


頭にポン、と手を置き、目線を合わせるように屈み込む。
陰ではっきりと解らなかった表情を、そのとき初めてこの目に映した。


「あれ」
「……何ヨ」
「チャイナさん、顔真っ赤」
「……そ、んなこと、無いネ」
「いんやァ?猿のケツの如くだぜ」
「オマエ、最悪アルな……」


期待しても良いのだろうか。
自惚れても良いのだろうか。


「なあ、チャイナ」
「何アルか」
「俺のこと、好きだろィ」
「……!!」


また俯いた兎を、思いのままに抱き締める。

──ああ、もう、

愛しすぎてどうにかなってしまいそうだ。


「……だったら」
「ん?」
「だったら悪いカヨ……」


胸に埋まる橙の隙間から覗く青い瞳は、恥ずかしさからかぷるぷる震える声を誤魔化すように俺を睨み付ける。
逆効果だってのが解ってねえな、この馬鹿は。


「チャイナ」
「っえ」
「好き、でさ」


黒い隊服を握り締める華奢な手を引き剥がして、何処からあんな怪力が出るのかと疑いたくなる程の小さい身体を抱き締めて、



「アンタは俺のだ」



そう言って深く口付ければ、何かが弾けたような幸福感が身体中を駆け巡った。

──なんて簡単なことに頭を悩ませていたのだろう。

一度触れることさえすれば、答えはすぐに見つかったのに。






(い、いきなり何するアルかこの変態ィィィィ!!)

(っゴフゥッ!!?)

(うわぁぁぁん銀ちゃぁぁぁぁん!!)

(なっ、んでまた旦那だよ……!?)






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