「あれって……」


大きな木陰に、巨大な白い物体。見覚えのあるソレに近付けば、やはり万事屋の飼い犬、定春だった。目を閉じて、寝息と思わしき音をたてながら丸まっている。もしやと思い覗き込めば、巨犬に埋まるように規則正しく上下する肩。白い毛を少し抑えつければ、露になる天使にも見紛う寝顔。


「……チャイナ」


心地よいそよ風が通り抜けるこの木陰、しかも傍には上質な毛皮を纏った愛犬。眠くなるのは道理。……かもしれないが、


「無防備にも程があらァ」


沖田は呆れ半分で神楽に向かい合いしゃがみ込む。日常の喧嘩中以外でこんなにも少女に近付いたことは無い。おもむろに手を伸ばし、口端にへばりつく髪の毛を静かに寄せる。攻撃以外で触れたのも初めてのこと。


「うわ……」


柔らかな肌に触れた途端、ドクリと胸に痛みが走る。心臓を鷲掴みにされ、尚且つ頭を鈍器で殴られるような鈍い感覚が沖田を襲う。


「チャイナ、起きろ」


──このままではおかしくなる。
沖田は眠る神楽の傍で妙な焦燥感に苛まれた。いつものような、喧嘩の範疇を越えた喧嘩をしなければ。自分の中の小さな変化が恐ろしくなり、沖田は神楽の肩を遠慮がちに揺する。


「チャイナ」
「……んぅ」
「チャイナ」
「んふ……、さだはりゅ……」


神楽はふにゃりと笑い、より一層白の中に顔を埋める。


「起きろっ、て……」


頭に靄が掛かっているようだ。神楽に触れている手が、異常な程熱い。そこから全身に熱が伝播して、ぼんやりと意識が浮遊する。



「神楽」



──意図せずに、その名は発せられた。

そして沖田は知る、この正体不明の感情が何なのかを。





恋せよ青年







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