熱愛 (1/4)

※微々裏










骨張った大きな手が真紅の衣を暴く。そこから覗く乳白色の肌にゴクリと喉を上下させ、熱い吐息を漏らしながら男は小さく微笑んだ。さらさらと流れる蜂蜜色の髪に擽られ身を捩る少女は未知の感覚にぐっと拳を結び……、



「っ何さらしとんじゃこの万年発情期がァァァッ!!」



──男を殴り飛ばした。



「ってぇな……、何しやがんでィ」
「オマエが何してんダヨ!病人だからって下手に出てりゃ調子乗りやがって!!」


顔を真っ赤に染め声を荒げる少女を、こちらもほんのり赤らんだ顔で見つめる男。……しかしこの男、何も照れている訳ではない。


「だから、汗掻いた方が熱は下がるんでィ。それにはやっぱ運動が一番でさァ」


特徴的な江戸っ子訛りで悪びれもなく言い遣すは、武装警察真選組の斬り込み隊長であり副長土方の命を日夜狙い続ける問題児、沖田総悟。


「熱あるときに運動って、バカアルか。なんでオマエの為に私が犠牲にならなきゃいけないんダヨ」


その沖田を蔑んだ目で貫く少女。万事屋銀ちゃんの従業員で酢昆布を何よりも愛するチャイナ娘、神楽。


「そりゃあこれが依頼だから」


飄々と言い退ける沖田に、神楽の中で本気の殺意が芽生えた。



──万事屋に依頼が来たのはつい先刻。土方からの電話にあからさまな嫌悪感を示した銀時が、依頼内容を聞いた途端ニヤリと笑い神楽を見た。詳しい説明も無いまま真選組屯所に来てみれば、ふらりふらりと死にかけの沖田が神楽を出迎えた。依頼と言うのは仕事中に倒れた沖田の看病、だった訳である。



「そんなに運動したけりゃ一人で勝手にやってろヨ」
「え、チャイナの前でオナ」
「そーいう意味じゃねェェェ!!」


沖田が自らの下半身に手を伸ばしたところで、神楽は沖田を蹴り飛ばす。かなりの勢いで壁に激突した沖田は、蹴られた箇所を押さえて呻き声を上げた。


「テメェ……、ついさっき病人つー言葉自分で言ったばっかだろィ。俺の状態忘れちゃいねぇか」
「だから大人しく寝てろって言ってるアル」
「…………」


沖田は不満げな顔をするも、何かを思い直したようにいそいそと神楽に近づき、警戒し睨みを効かせる神楽をその腕の中に閉じ込めた。


「っな、な……!!?」
「ちゃーいな」
「誰ダヨ!?オマエ誰ダヨ!?」
「……着替え」
「?」
「隊服じゃ寝れねぇから、着替えさして」
「ハァァ!!?」


甘えるように擦り寄ってくる沖田。ふざけているのかと押し返すもその身体はやはり尋常ではない熱を放っており、神楽はハッと息を呑む。


「……いつも、公園で寝てるダロ」
「流石に布団の中でこんなゴツイ服じゃあ気持ちワリーよ」
「自分で……」
「あ、ダメだわコレマジで。死ぬ程怠い。身体が鉛のようだ」
「ぼ、棒読み、っぴゃあッ!?」


沖田はだらりと神楽に凭れ、耳元に熱い吐息をふうっと吹き掛ける。


「……ほら、早く」


異常な密着に反射的な拒絶反応が起こり腕を押し出しそうになるが、何せ相手は病人(さっき蹴り飛ばしたりしたのは、……アレだ、正当防衛)。神楽は状況打破を諦め、大きく溜息をついた。


「っゔー、……依頼料追加だからナ」


悔しそうに沖田を睨み付け、その黒い上着に手を掛ける。スカーフを解きベストを脱がせると、シャツに手を伸ばしたところで動きを止めた。いくら耳年増の神楽でも年齢的には花も恥じらう乙女、男の裸体など見慣れたものではない。


「どうした?」
「……なんでもねーヨ」


沖田ごときを相手に緊張しているなどとは悟られたくない。神楽は平静を装い行為を続ける。そんな神楽の様子を見、沖田は内心酷く興奮していた。羞恥に震えながらも自分の言いなりになる姿が可愛くて仕方が無い。義理堅い彼女のことだ、いくら好かない相手の自分でも、弱った人間をぞんざいに扱うことなど出来ないのだろう、こんなにも従順になってくれる。


「……オイ」
「んあ?なんでィ」
「ズボンぐらいは、自分で脱ぐヨロシ……」


いつの間にか肩から着流しが掛けられており、眼前では神楽が真っ赤な顔で不貞腐れている。肌が見えている為なのか自分から逸らされた視線に、明らかな緊張を伝える強張った表情。


「……い」


剥き出しの男の手が、神楽の細腕を捕えた。



「チャイナ、可愛い」








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