柄にも無く全力で走った。


──神楽に会いたい、会わなければ。


餓鬼だと言われても構わない。今すぐ少女をこの腕の中に閉じ込めて、自分のモノだと宣言をしてやる。隠した心を認めた今、沖田に迷いは無かった。


「っ、はァ、は……」


万事屋に人の気配はしない。ならば次はと振り返り、沖田は目を見開いた。


「土、方」
「……総悟」


少女の隣に、最も気に食わない男。その光景に、沖田はギュッと拳を握った。


「っ……、バイバイマヨラー」
「おいチャイナ娘っ」


沖田の横をすり抜け階段を駆け上がろうとする神楽を、強い力が捕える。勢いを殺された神楽の身体は小さくよろめき、黒衣へと沈んだ。


「放せヨっ!!」
「放さねえ」


土方を睨み付けたままの沖田が、神楽を覆い隠すように抱き締める。全力で暴れるも解放してくれる様子は無い。神楽は抵抗を諦めぎゅっと目を閉じると、嫌でも聞こえてしまう鼓動をひたすら感じていた。自分のものなのか、それとも今自分を抱き締めるこの男のものなのか。判断出来るような余裕など、神楽は持ち合わせていなかった。


「……土方さん」
「変な勘違いすんじゃねえぞ。てめえが事を起こせたんなら俺はお役御免だ。……あー、慣れないことはするモンじゃねえなァ」


懐から取り出した煙草に火を点け、吸い込んだ煙を静かに吐き出す。赤い空に消えていくそれを見届けた後、土方は鋭眼に青い二人を映しだした。


「……オイニコチン。何訳解んないこと言ってるアルか。説明しろコラ」
「説明ならそこの顔面火照らした野郎に求めるこった」
「テメェ土方……」


不機嫌に顔を顰める沖田を見、土方は意地の悪そうに口角を上げた。今まで散々命を狙ってきたことに対する仕返しとでも言うように、表情には出すまいとしながらも狼狽えている様子が丸分かりの沖田の反応を楽しむ。こんなことをすれば後からの報復が恐ろしいのだということを思い出したのは、後日顔前3センチに刀を突き付けられたときだった。



「上手くやれよ?総悟」



すれ違いざまにそう言えば盛大な舌打ちを送られる。未だ腕の中の少女を強く抱き締め放さないところには年相応に素直なところもあるものだ、と今更ながらに沖田がまだ子供であることに気付く。



「アンタに言われるまでも無ェや」



憎たらしげに吐き捨てられた言葉を背に、土方はひらりと手を振った。






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