またしても仕事中に姿を消した沖田。大方何処かで惰眠を貪りつつあの少女を待っているのだろう。連れ戻しに行く気は無い。けしかけたのは自分のようなものだが、事態の収拾がどうなるかはあの二人次第。 「他人の色恋に首突っ込んじまうたァ、俺も腑抜けたモンだ」 土方は自身に苦笑しつつ思考を遮断し、つまらなく平和な街の巡回を再開する。 「……あ?」 夕日の眩しさに目を細めたとき、その光の中に突如現れた影。しゃらりと揺れた髪飾り、土方の手は反射的にその影を捕えた。 「……チャイナ娘?」 掴んだ腕は細く、あまりに脆いものに触れてしまったような不安に駆られる。土方は意図せずに神楽の腕を解放し、その姿に息を呑む。常人を遥かに超えた強さを持つ筈の少女が、夕日に溶け込み消えてしまいそうな程儚げに見えた。 「……マヨラー?」 「っ!」 「どうかしたアルか?」 「いや、悪ィ。なんでもねえよ」 先程の映像を掻き消し、土方は気を取り直そうと咳払いをひとつ。そんな自分を訝しげに見つめてくる神楽の様子にくすりと笑みを零し、夕日に染まるその頭をわしわしと乱暴に撫でた。 「ここら歩いてんのなんて珍しいんじゃねーか?いつもは総悟の巡回コースとモロ被り……」 ──しまった。 放った言葉が戻ってくる訳も無く、神楽はその名を聞き表情を曇らせた。 「……気にしてるか、あれ」 「オマエら男には解んないことアルな。乙女はデリケートなのヨ」 「……そうか」 乗せたままの手でもう一度優しく頭を撫で、土方は俯く神楽を覗き込む。 「送る。もう日が暮れるからな。お前に何かあったら俺が万事屋に殺される」 どうにも、今の少女をひとりにしてはいけない気がした。 「……ウン。悪いナ、トッシー!」 「トッシーは止めろ」 滅多に見せたことの無い優しげな表情をする土方に、神楽もつられて笑顔を見せる。歩調を合わせながらゆっくりと歩きだす姿が、茜色の道に長く影を作っていた。 → |