白い肌、桃色の唇、華奢な体躯、吐き出す言葉さえ無視すれば愛らしい声。外見だけなら幾らでも夢を見ていられる女だ、それは認める。 「腹減ったアル。なんか出せ」 しかしこの、恥じらいの欠片も無く欲求に素直すぎる性格だ。前言撤回、こんなの女じゃねえ。そう理解している筈なのに。 「……おい、どーした」 「全くでィ。どうしちまったのかね、俺ァ」 「ん、」 初めて触れたときにはこれでもかという程に見せた抵抗も今はもうじゃれつくようにささやかで、頬を包めば瞼を下ろして小さく唸る姿には野良猫を手懐けた優越感。こうして俺の自室に入り浸るチャイナは既に見慣れたものなのか、隊士は誰も反応を示さなくなった。単に隊長である俺に怯えて何も言えないだけかもしれないが、馬鹿にしてんのかってぐらい生暖かい視線を寄越してくる山崎は茶菓子運搬係に任命してやった。 「……オマエの手、痛い。硬いし血豆いっぱいだし」 「剣士たる者小綺麗な手じゃあ格好付かねーだろ。それに、てめえも嫌じゃねえクセに」 「…………」 肯定の言葉も否定の鉄拳も無い。 親指でこするように唇を撫でると小さくふるりと身体を揺らす。本人曰く『なんかきもちいい』らしいのだが、なんだそれ相当やらしいだろィ。 「腹は膨れねえが口寂しくなくならしてやれるぜ」 「腹減ったって言ってるダロ」 「本当に?」 「……オマエやっぱり嫌いアル」 欲求には素直でも自分にはそうではないらしい。俺に有利な間合いに居るのを理解しているだろうに逃げようとはしないし、面白い程に赤い顔にいつもの生意気な様子はすっかり隠れている。こんな状態で言われた“キライ”に攻撃力は皆無だ。むしろ反対の意味に取れるけど、などと呟いてみた。 「っ……!!」 「あっれー神楽サン、照れてんの?」 「ぐ……、うっ、うるさいうるさいバーカバーカ!!」 怪力のままに殴打の嵐。的が定まっていないのかまともには当たらないのだけが救いだ。タイミングを見計らい手首をキャッチしてやれば、いきなり電池切れのごとく脱力した。面白い奴だと思う。 「バカはそっちだろ、バーカ」 大人しくなった口に噛み付いた。 柔らかな感触は病み付きになる毒を孕んでいる。麻痺した頭にまともな思考は戻ってこない。 「ふ、む」 「…………」 ──信じちゃいねえが神様仏様、それからお元気ですか姉上様。 今の今まで嘘ついててすいやせん。 なんだかんだ回りくどいことを言ってはきやしたが、つまりはそういうことです。 「神楽可愛い超愛してる」 ……真顔で言うなと殴られたが許してやる。何といっても可愛いからな。 あ、俺達付き合ってます。 ─────────────── どうでもいい捕捉説明:付き合い始めてからデレデレしすぎて『キモチワルイ』とぐらたんに言われた隊長。ならば出会った頃のようにと精一杯にSしてみる。→無理だった。 モノローグで読者までをも騙そうとするのが沖田クオリティ。 2013.4.22 |