3 朝の定例会議に沖田は不在だった。寝坊に遅刻常習犯、おまけに起き抜けに一技食らわせてくる面倒な男をわざわざ起こさなければならない程の議題が無かったことが理由ではあるが、いつもならば会議終了を見計らったかのようなタイミングで姿を見せる筈が一向に現れない。 「……あいつはまだ寝てんのか」 これは流石にいただけない。 幼い頃を知る為か多少の我儘には目を瞑っている節があることは自覚しているが、それにしても甘えすぎではないか。 近づく沖田の部屋からは何やら声が聞こえる。起きているならさっさと出勤すればいいものを、あの怠け癖はどうしたものか。近藤からもきつく言ってもらわなければと常々考えてはいるが、あの人は身内、とりわけ弟のような存在の沖田には呆れる程甘い。やはりここは自分がなんとかせねばと土方は強い使命感を胸に燃やした。 「コラァ!!テメェ総悟……」 「っうえ、や、やめ」 「んー……、もうちっと欲しいモンだな」 燃やし過ぎて灰と化した。まま彼方に吹き飛ばしてしまいたくなった。 「……な、にしてんだお前」 「あれ土方さん、はよーございやす。いえなに、丁度良いカンジの抱き枕があったんで試してみただけでさァ」 沖田は神楽の慎ましやかな双丘に顔を埋めぐりぐりと無遠慮に頭を摺りつけている。嫌悪よりも恐怖に表情を強張らせている様子のあたり、意外にもウブなところがあるものだと場違な感想に意識を置きかけ土方は我に返った。目前に犯罪者が居るではないか。 「おィィィィ!!?」 「朝からなんですかィ。近所迷惑ですぜ」 「誰かァァァ!!万事屋に連絡!迎え寄越させろ今すぐにだ!!」 「うるせーっつってんだろ土方。コイツがなかなか寝付かなかった所為で寝不足なんでさァ。まだ寝やす」 「や、やだあ!マヨラあ!!」 手を伸ばす神楽の赤いチャイナ服は乱れに乱れている。ドレスでないことが唯一の救いだが、怠くよれた襟元や捲り上げられた裾には沖田の一方的な情が見て取れる。抱き枕どころか愛玩人形扱いではないか。 「洒落になんねえんだよテメェ!子供にナニしてやがる!!」 「子供言うなニコチンやろ、ふぅわ……!」 「俺の抱き枕が土方なんざ相手しなくていいんだよ。黙って抱かれてろ」 「とんでもなく語弊あんぞそれェ!!」 早急に(地球の)実家に帰そう。 メニューには見当たらなかった筈の太巻きを神楽の口に詰め込みやけに色気染みた笑みを浮かべる沖田に疲弊しきった目を向け、土方は思うのだった。 ──ついでに言えば、神楽を万事屋に送り届けたのも沖田であったという。家出娘の保護、という建前に自らの罪を隠し立派に警察らしい振る舞いをする演技力には感服でした、と付き添いの山崎は語る。外堀から埋める為銀時の信頼でも得ようとしたのか、沖田の真意は定かではない。ただひとつ言えることは、確実に神楽の貞操が危機に晒されているということだ。 神楽によれば抱き枕騒動の朝、目を覚ましたときもう既にあの状態が作り出されていたらしい。当然眠っている間の記憶は無く、覚えていることといえば夢の中で飼い犬の定春に舐め回されたことくらいだと言う。 土方は言わなかった。 恐らく現実でも同じ行為が犬ではなく人間の男によって行われていたであろうこと、そして、神楽の首元に小さく赤い痣のようなものが残されていたことを。 ─────────────── イチコさまリクエスト 『真選組に預けられる神楽』 そして土方さんはのちのち銀さんに相談を受ける。 2013.4.20 |