「おい、総悟はどうした」


給仕が悲鳴を上げる驚異の胃袋に隊士の多くが食欲を失っていった中、沖田だけはその光景を眺めながら口元を綻ばせ神楽の膨れた頬をつついて遊んでいた。
案外仲良いじゃねーかあの二人と暢気にそれを見つつ箸を進めていた土方であったが、懲りもせずお妙への特攻を宣言し屯所を飛び出そうとした近藤を引き止める為に早々食事を切り上げる羽目となってしまう。結局近藤の熱意に気圧され解放を許したのだが、正直もう勝手にしてくれという気持ちでいっぱいだった。そうして疲労困憊で食堂に戻った訳だが、一番の問題児の姿が消えていることに気付き無意識に眉をひそめる。嫌な予感ほどよく当たるものだ。


「沖田隊長?は、えっと、チャイナさん持って何処か行きました」
「持っ……?ああ、部屋の案な──」
「っ嫌アルうううゥ!!」


焦燥に満ちた悲鳴が土方の言葉を遮る。何事かと目を向けるより先に横腹を襲った衝撃に刹那視界は白塗られるも、吹き飛んだ身体に重みを感じすぐに意識を向ければ、水を纏いゆらゆらと揺れている蒼い瞳があった。


「っチャイナ娘!?」
「マヨラあ……」


タオル一枚を巻いただけという大変目の毒な恰好で土方にのしかかる神楽。まるで少女が男に迫っているような、はたから見れば随分な衝撃映像である。先程声をかけた隊士は硬直し立ちすくんでいたが、一瞬の内に顔を真っ赤にし走り去っていった。この男所帯しか知らないまだ幼さの残る青年である、無理もない。土方とて、今現在全く動揺を隠せずにいる。


「おおおいチャイナ娘、何、何が」
「さどやろー」
「総悟?」
「風呂場に押し込まれて、背中流してやるとか言われて、あいつ、服っ……」
「……よーし逮捕だあのヤロウ」


世話役をあっさりと引き受けた裏にはとんでもない下心があったようだ。沖田の神楽に対する感情とそれに伴う態度の真意を知り、土方は呆れると共に頭を抱える。まさかこのまま神楽の傍に沖田を付けておく訳にもいかない。なんと言っても前科持ちなのだから。誰を好きになろうと構わないが、この強気な娘を泣かせる程のセクハラを働くなどということはいただけない。
土方はなんとか自身から引き剥がした神楽の頭を撫でつつどうしたものかと思案する。寝床の確保は自分がすれば問題無いが、現状それ以上の問題が発生しているのだから困りものだ。屯所内で強姦事件など起こされてはたまらない。近づく足音の主に辟易した視線を投げ、目に入った裸足に事実を突き付けられたようで疲労感が上乗せされる。


「……沖田。てめえはしばらく牢暮らしだ変態野郎」
「なんでさァいきなり。ああ、風呂のことですかィ?ありゃあほら、一応こいつも客でしょう?もてなしでさァ、もてなし」
「言い訳は取調室で聞いてやる。とにかく一言謝罪しやがれ。こいつが泣くなんざ相当だろ。こいつの親父に殺されるぞ」
「落ち着いてくだせえよ土方さん。俺はただ親切心からやったまででさァ」


服が汚れたっていうから、じゃあ洗濯に出しておいてやるってなあ流れになって、服脱ぐんならついでに風呂も済ませたらいいっつって浴場に連れていってやりやした。勿論、着替えもちゃんと渡しましたぜ?で、知らない場所じゃ使い勝手も分かんねえだろうなー、と思いやして。


「なら俺も一緒に入ればよくね?と」
「どうやったらんな結論に至るんだよ」
「服が汚れてるって言い出したのはそっちだろ!私一度も同意してないアル」
「おい」


その後牢獄送りはなんとか免れた沖田だが、神楽への接触禁止令を下されたのは言うまでもない。








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