嫌いな筈だったそれに心地よさを覚えはじめたときには我ながらどうかしていると衝撃を受けたが、思い返してみればもうその時点で男はニオイを“纏っている”だけで傍迷惑に吐き出すこともなくなっていた。街で見掛ければ相も変わらずもくもくと部下に疎ましそうな視線を向けられていたが、神楽の前では懐から取り出す仕草さえ見せない。駆け寄ってくる橙色に微かに赤らむ強張った表情で応えながら吸殻をまるで親の仇のように踏みにじる格好のつかない姿に鬼の霍乱かと多くの隊士が怯えた。神楽にしてみればもう随分と見慣れた、不器用な土方の精一杯だった。




「よお」


砂を弄る爪先から視線を上げる。空気に混じった濁りが期待を運んでくるも、見上げたそこには弱い日差しを返し金にも見える蜂蜜色。


「……オマエ、ヤニ臭いアル」
「土方がパトカーん中で煙ってやがったからでィ」
「ふーん」


ちらりと背後に移された視線に沖田が気付かない訳がない。不満気に目を細めると誰かを探し忙しなく動く碧眼を鋭く捉える。もっとも誰か、など尋ねるまでもないが。


「おめェ……」
「トッシーは?」
「……知らねえよ。見廻り終わった後すぐどっか行った」
「そうアルカ」


用は済んだとばかりに立て掛けておいた傘を鷲掴み立ち上がる神楽に、沖田の表情はますます険しいものとなっていく。お気に入りの玩具を横取りされたような気分だ。深い意味はないが、とにかく気に喰わない。しかし神楽を引き止める明確な理由を、沖田は持ち合わせていなかった。


「クソ土方が……」


小さな背中が向かう先に居るであろう影に吐き捨てる。神楽が振り返ることはなかった。








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