5.




先程まで降っていた大粒の雨は細い糸となり、この程度なら傘を差す必要もないかと自前のそれは畳み 利き手へと収める。もう一方の手には以前妙が忘れていった雨傘。年季の入った自身の番傘と見比べると相変わらず切なくなるが、結婚した身とはいえ戦いの場から退いた訳ではない。可愛らしい傘は残念ながら武器にはなりえないのだ。


「神楽ちゃん?」
「あっ、お久しぶりですアル」


見知った顔にぺこりと頭を下げる。妙の職場には少なからず縁がある。つまり、知り合いも多い。


「ほんと久しぶりね。どうしたの?」
「傘、姉御に届けに来たアル」
「あら、妙なら今接客中だわ。ごめんね?わざわざ来てくれたのに本人が出てこれなくて」
「姉御が忙しいひとなのはよく分かってるネ。これ、渡しておいて貰えますアルカ?」


ぎこちない敬語は沖田との結婚が決まったときから必死に身に付けたものだ。沖田の姉──ミツバの墓前への挨拶では、そのたどたどしい口調に吹き出した沖田を地に沈めたことを覚えている。
傘を手渡し任務完了とばかりに清々しい表情で感謝の意を伝えると再び強まる雨に気付いた。傘を開くと狭まる視界。帰るのがなんとなく億劫だと思うのは飛沫に霞んだ景色の所為であろうか。


「え」


灰色の世界に眩しい色が飛び込んできた。しかしそれはすぐに視界から消えてしまう。
雨の音を押し退け、鼓動が嫌に頭に響く。


「総、悟」


眩しい、蜂蜜色だった。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -