6.




「お妙ー、もう時間じゃない?」
「あら、本当。……御免なさい沖田さん。今日はもう上がりなの、ここで失礼させて頂くわ」
「ああ、私もそろそろ。近藤さんは隊の者に処理させますので」
「助かります」


隊士に呼び出しの電話を入れ、隊服のジャケットに袖を通す。仕事とは名ばかりの騒がしい宴がようやく終了し沖田は小さく息をついた。呑まずのこの身に酔っぱらいのテンションは辛いのだ。


「あ、そうそう、これ」
「傘。……銀さんが来たの?」
「旦那?」
「ええ。傘を持ってきて欲しいって頼んでいて……」
「あら、来たのは神楽ちゃんよ?」
「え?」


暗くなるちょっと前にね、外で会って。──妙の同僚の声が、嫌に頭へ響いた。良い予感はしない、培った勘は何も戦闘に関してのみ働いてくれる訳ではないのだ。


「皇帝さんが店に入るの見て、走ってっちゃったけど」
「ッ……」


仕事で遅くなる。そうは言ったが、この店で上司の接待なのだということまでは伝えていない。近藤には神楽のことは心配無いと告げたものの、店に入る自分の姿を見て走り去ったなどと聞いては不安を抱かずにはいられない。仕事が少し立て込んでいた為に隊の人間とは遅れて入店した。つまり、神楽には一人で風俗店に入るところを目撃されたという訳だ。あらぬ誤解をされたとしてもおかしくはない。


「……姐さんすいやせん。ここは送っていかなきゃなんねえところなんでしょうが」
「とんでもないわ。早く迎えに行ってあげなさいな」


私の所為でごめんなさい。眉を下げ謝罪を口にする妙に首を振り、沖田は振り返る。“皇帝”を演じているときには鳴りを潜めていた沖田総悟の灰汁の強い顔は、外見の美麗さにそぐわぬ悪戯に歪んだ笑みを浮かべた。


「たまに刺激がある方が愛も深まるってもんでさァ」


冗談のように翻るマントの紅を背負い、沖田は鈍色の闇へと消える。


雨は止んでいた。




つづく.




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