「おめーに惚れてると自覚したその日から、俺ァどうも腑抜けちまって仕様が無ェ」


顔を合わせるなり言われた言葉に神楽は口元をひくりと引き攣らせた。今まで散々セクハラ紛いのスキンシップをされてはいたが、まさかこうもはっきり言われる日が来ようとは。沖田の真剣な表情を、戸惑いも隠せずに見つめた。


「……そ、そうアルか。ある意味恐ろしいときもあったと思うけどナ」
「あ?」


血走り赤い目をぎらつかせ荒い息で迫ってきたときには、悪魔と契約でもしたか、はたまた人に掛けた呪咀がとうとう本人に返ってきたかと恐怖した。首筋に噛み付いたところで満足したように去っていった沖田の背中を見送りながら、自分にも悪魔が取り憑いてしまったのではと本気で心配した程だ。


「ということで、初心に返るっつー意味も込めて決闘するぜィ」
「決闘!」
「……嬉しそうだな」


神楽は瞳を輝かせばきばきと指を鳴らす。日頃のどんなアプローチよりも喜ばれてしまうのは色恋には程遠いその言葉。沖田は複雑な心境で神楽との間合いを詰めた。


「俺が勝った暁にゃあ、てめーは俺のモンってことで。」
「勝つのは私アル!!」
「てめーが万が一にでも勝ったとしたら、ま、沖田の姓でもプレゼントしてやらァ」
「え、要らね。」


──乱闘は開始の合図も無く始まった。
沖田と神楽、双方が激しく相手を攻めたてる。神楽は久々の昂揚感に思わず笑みを零し、太陽を隠してくれている雲に少しばかりの感謝をした。思いのままに動く体は、心なしかいつもより軽い。


「っ、む」


しかしそこではたと気付く。
いつの間にか、沖田の攻撃は止んでいた。神楽をあしらうように躱し、防ぎの防戦一方。神楽は番傘で地面を抉り、その一撃を切りに息をついた。


「……なんだヨ。もう降参アルか」


打ち込んだ姿勢のまま、見上げて睨む沖田の顔。不満気な神楽の瞳をじっと見据え目を細めた沖田は、その手で白く照る頬に触れた。


「……やっぱ、今更もう無理でィ」
「ハ?」
「スリットからちらっちら見える太股とか生意気に揺れる乳とか、もうそこしか見えねえ」
「最低アル。」


軽蔑の眼差しを気にも留めず、柔らかな肌を辿り小さな顎を掬い上げる。動揺に傘を取り落とした神楽は、無意識に唇を固く結んだ。


「……喧嘩、そんなに好きかィ」
「オマエが仕掛けてこない所為で運動不足なんだヨ」
「体動かせりゃ何でもいいのか?」
「?ウン」


返答を聞くや否や、沖田の口端が妖しげに持ち上がる。何を思っての笑みなのかを察することなど神楽には難しく、ただ不思議と予感出来る危機の影に冷や汗が流れた。


「んじゃ、激しくて尚且つ気持ち良くなれる運動、教えてやろうか?」
「え、……や、遠慮しとくネ。なんかオマエの顔、変……」
「遠慮なんざ俺達の間には必要無いだろィ?何言ってんでィ」
「あ、マジでいいアル遠慮っていうか拒否しますアル。私、帰っ」


抱き上げられた身体、拓けた視界。
……逃げ道は閉ざされた。


「さー、運動運動。」
「ぎゃあァァァ!!」


──ピンク色の宿場街へと呑み込まれていく悲鳴。急勾配な大人の階段の手前、少女の抵抗は儚く散った。




2012.6.17




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