「っふ……」


呼吸をする間も惜しむように合わせた唇、零れる吐息は熱く重い。抵抗を示す為押し付けた手は難なく掬われ、隙間無く絡め取られた指を水場特有のしつこい湿気が余計にきつく結ぶ。


「やあ、ヨ……」


微かな声をあげる口元をべろりと舐め不敵な笑みを見せると、沖田は神楽の紅く染まった頬に親指を滑らせ撫でた。


「嫌そうには見えねえけど」
「し、ねっ……」
「嘘はいけねーや」


濡れてしまった為にくっきりと形を現すそこに手を置き、ぐっと押さえ込む。伝わる鼓動に思わず喜び混じりの声を漏らした沖田に、非難を込めた視線が刺さる。


「どこ、触ってんだヨ」
「すっげー煩ェ、心臓。……嫌がってんじゃあねえだろ?」
「勘違いも甚だしいアルナ変態サディスト。地獄に突き落とすゾ」
「ほんと、素直じゃねー……」


力無く座り込む神楽の膝を割り、密着させる冷えた身体に熱を探す。胸に置かれた手は背中に回され、先程よりも直に感じる鼓動を二人、共有する。
白く細い首筋に口付けを落としながら、鏡に映る自分の情けない程欲塗れた顔に沖田は苦笑した。


「……なんなんだヨ。ちょっと顔が良いからって女が皆靡くと思うんじゃねーゾ、クソヤロー」


震えた悪態に視線を合わせる。髪色と同じ橙の睫毛に輝きが灯っていた。


「……泣いてんのかィ」
「泣いてねーヨただの水滴アル。……見んナ」


からかわれているとでも思ってなのか、悔しげに一文字を描く唇は色素を失うまでに噛み締められている。見つめていれば火照る頬は面白いまでに正直だというのに。


「……誤解されちゃあ堪らねえんで言っとくが、誰でも良いとか溜まってるとか、んな理由でこんなことしてる訳じゃねえよ」


涙か、それとも本当に水滴か。その真偽に対しては然程興味も無く、吸い付いた肌の柔らかさを堪能しつつあやすように髪を撫でる。


「俺ァずーっと、チャイナさんに清く淡ぁーい恋心を抱いてたんでィ」
「っ……、ウ」
「嘘だってか?信じらんねえなら、そうだねィ……、大好きな姐さんにでも確かめてみなせェ。俺がてめえを好いてることなんざ、本人以外誰もが知ってる事実だぜィ」


どんどん上がる神楽の熱。触れている此方の方が、きっと本人よりも数段それを敏感に感じているだろう。


「今度から土方んとこ行ったりすんなよ。あと旦那に飛び付くのも禁止。あ、眼鏡にくっつくのもな」


追い討ちを掛けるように、橙を除けた耳元に顔を寄せ、故意に低めた声を流し込む。


「な、んで、オマエにそんな」
「独占してえから、他の男には見せたくもねえから。それしか無ぇだろィ」
「……オマエ、恥ずかしくないのカヨ」
「本音だし、なんとも。」


耳朶を甘く食み、鼻先で輪郭を辿り唇を捕える。触れるだけのそれを徐々に深め、柔く濡れた熱をわざとらしく主張しながら呼吸をひとつに時を止める。沖田は薄めた視界に神楽を収め、煽情的に歪んだ表情に自身を昂ぶらせていた。


「さ、ど」
「ん……」


夢中になっている沖田に、うわごとのような神楽の訴えは届かない。


「っおき、た……」
「なに、足りねえ?」
「ちが、おかし……、ヨ。なんか、ふわふわ、す……」
「え」


沖田の肩に頭を預け、神楽はそのまま意識を手放した。


「……逆上せちまった、か?」


すっかり目を回してしまった神楽を腕に抱き、些かの違和感を下半身に残したまま立ち上がる。長く吐き出した息と悶々とした気を背負い、沖田は切なく呟いた。


「生殺し……。」


──その後、神楽の着替えを届けに来たお父さん(銀時)に浴場での過ぎた悪戯が露呈し、神楽への接触を禁止されたのは言うまでもない。



(え、従うつもりなんざ更々無ェですけど。)



2012.5.27




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -