「食べ物は粗末にするなって、マミーに教わらなかったアルか」 「…………」 「シカトかコノヤロー」 受け取ったタオルを腕に抱え、神楽は未だ文句を吐き続けている。その少し前を急く沖田はそんな神楽を一目も見ようとはせず、到着した浴場の脱衣場に乱暴な足取りで踏み込んだ。 「ふわ、無駄に広いアル。税金ドロボーめ」 「……着替え、とかは旦那に頼んどきまさァ。多分もう土方さんが連絡してる」 「?おうヨ」 無愛想な口振りに違和感を感じつつ、万事屋の比ではない大風呂に興奮気味の神楽は髪飾りを外し手近な棚にそれを置く。しかし黒にこびり付く黄ばんだ白が目に入り、舌打ちと共に大きな足音を鳴らし沖田へと詰め寄った。 「おうおうお兄さんヨー。こりゃ弁償モンだぜ」 「分かったから早く入って来いや。マヨ臭くなんぞ」 「……何アルカ、オマエ。なんか今日変ヨ」 此方を見ない伏せた目にやはり不審さを覚え、視界に入るよう身体を傾け覗き込む。そしてようやく交わる視線に見えた表情を理解しかね首を傾げたその刹那、沖田の腕が神楽を捕えた。 「お、わ」 神楽を肩に担ぎ上げ、衣服もそのままに浴場へと運び入れる。そしてシャワーの許へ下ろしたかと思うと、バルブを捻り何の遠慮も無しに湯を流し出した。 「う、ぎゃあ!てめ……」 ──それ以上の言葉を紡ぐことは許されなかった。 張り付いた前髪と流れる雫、その狭間から見える景色には蜂蜜色ばかりが映っている。 「っ……!?」 触れていたのは互いの唇。流れるシャワーの勢いに降ろさざるを得ない瞼の下、離れた気配をただ微かに感じる。きゅ、と閉じた湯口から滴り落ちる水滴に神楽の身体は小さく跳ねた。 「……い、ま、何」 「ちゅー。」 「は」 水分を吸いきり重く、そのうえ肌に纏わり付く服は不快以外の何物でもない。 「てめーが悪いんでィ」 しかしそれ以上に、目の前の蘇芳が孕む熱への違和感と自分の中に現れた見知らぬ感覚が神楽を不快にさせた。 「白いモン浴びて……、あんな姿見せられて変な想像しない男は居ねえだろィ」 「……意味、解んねーヨ。しかもマヨ掛けたのはオマエアル」 「そうだっけ?」 とぼける沖田に白い目を向け、呆れ顔で溜息。雫の垂れる髪を一纏めに絞れば、真っ直ぐに流れ落ちる透明。顕わになった項には取り零した橙が曲線を描く。沖田は食い入るように神楽を見、惚けたままに口を開いた。 「なぁ、チャイナ」 「んだヨ」 「どうしよ」 「何がアルカ」 ごくり、飲み込んだ空気に喉が上下する。 「……ムラムラする。」 被った湯は冷えきっている筈が、濡れた全身は熱を忘れてくれない。再び奪われた唇の自由に遠のく現実味は夢を視るより不確かで、次々与えられる口付けにずるずると座り込む神楽にその判別は不可能だった。 next →未遂ルート →完遂ルート |