※下ネタ注意






「今日中に提出。サボんなよ」


余計な一言と共に押し付けられた書類の山。着流しで居ることから察すると土方は非番、そして生憎の悪天候に外出もしないであろう。つまり監視役は屯所に常駐という訳だ。


「パワハラでさァ。優秀な部下を妬んで苛めるなんて器の小せえお方でィ」
「優秀な部下は上司の命狙ったりなんざしねえよ」
「命?嫌だなァ、そんなつもりはありやせんよ。ただちょいと副長の座を譲って貰おうと……」
「真面目にしてりゃあ副長補佐くらいの地位にはなれるんじゃねーの。聞いたことねえけど」


いつもならば怒号が飛んでくる筈が、久々の休暇に気を抜いているのか軽くあしらう程度の土方は三白眼で仕事の催促を示す。張り合いもなくつまらない上司の態度に、事を仕掛ける気も削がれてしまった。


「へーへー解りやした。今日中ですね」


書類を小脇に取り出す赤いキャップのソレ。煙草を銜え落とした視線の先、捉えた黄白色に土方は顔を跳ね上げた。


「……お前、その手に持ってるモンは」
「ラードでさァ」
「嘘つけ!!どう見てもマヨネーズだろーが」
「なら確かめてみやすか?今此処にブチ撒けるんで」


貴重な非番を丸一日掃除に費やせばいい。沖田は非情の笑みを浮かべ、ラード(と言い張る)の腹に圧力を込めた。


「はいさーん、にー、いーち」
「っおいィィィ!!」
「発射ー」


にゅるんと乗り出す内容物は駄目押しにと押し潰せば空気を含んで暴発し飛沫を零す。落下点は上等な畳の上、そして土方の顔面。……の筈だった。


「…………」


愛するマヨネーズを何の躊躇いも無く躱し後ろに退いた土方に、殆ど空の容器を握り締めたまま立ち尽くす沖田。二人が見つめるその先には、呆然と見開く蒼い目。


「……チャ、チャイナ娘?」


点々と飛び散った白が、鮮やかな橙を汚していた。


「……ヨ。随分な歓迎アルナ」
「そりゃ済まねえ、が、……なんだって此処に」
「姉御のとこでゴリラ捕獲したアル。返すついでにトッシーんとこ寄ろうと思ってナ。……まさかマヨぶっかけられるなんて思わなかったけど」


神楽は袖口で顔を拭いながら恨めしそうに沖田を睨む。沖田はというと、神楽の言葉にむっとした様子で眉を寄せていた。


「なんで土方」
「酢昆布買ってくれるから。」


土方はどんどん悪くなる沖田の機嫌に肝を冷やしつつ、マヨネーズ塗れになった自室を見下ろし頭を掻いた。


「あー……、チャイナ娘。屯所の浴場貸してやるから、さっさとソレ流してこい。総悟は案内しろ」


分かりやすく嫌な顔の神楽を余所に、何処か複雑な表情の沖田は無言でこくりと頷いた。それが何を思ってのものなのかは何となく察しの付いた土方は、部下の単純な思考回路がショートを起こさないことを祈りながら無惨な姿で散らばる彼らの収拾を開始した。










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