4.




「お妙さ、あばァっ……!!」


お妙に鉄拳制裁を喰らい顔面スプラッタ状態の近藤は、それでも尚時代錯誤な口説き文句を吐き続け死期を早めようとしていた。見飽きた光景に酒を入れていない身体は疲れを見せ始め、沖田は深い溜息を逃がし時計を見遣る。神楽はもう寝てしまっただろうか


「今日は呑まれないのね、お酒」


屍と化した近藤を放ると、相変わらずの笑顔で妙は言う。一瞥した上司の惨状に苦笑しグラスの水を飲み下す沖田。妙は近藤を挟むようにして沖田と同じ座席に腰を下ろし、店内の賑わいを眺めた。


「とっつぁんと近藤さんの付き添いとして来ただけなので。まァ、介抱役でも務めようかと」


しかし当の松平は既に店を後にしており、すっかり出来上がった近藤を残された沖田は素面のまま夜の歓楽の中退屈に時を過ごしているしかなかった。


「あら。流石、家庭を持つと変わるものね。……神楽ちゃん、良い奥さんでしょう?」
「それはもう、昔からは想像も付かない程に」


結婚どころか交際すらも成立していなかったあの若き日、神楽が沖田を意識するようになったのは妙の力添えがあったからだといつか神楽から聞いた。自覚していない心を諭してくれたのが彼女だったと、照れ臭そうに微笑んで。


「……姐さんには世話を掛けます。どう礼をすれば良いのか」
「神楽ちゃんが幸せなら私はそれで充分よ。妹みたいなものだもの」


──神楽が幸せかどうか。
自惚れでなければ、それは確かに明瞭なことだった。恋を経、愛を育み、二人は共に幸せを生きている。沖田にはその自信があった。


「……ご自身は?姐さん。近藤さんならいつでも婿に出せますが」
「ふふ。ふざけたこと言ってんなよコラァ」
「すみません。」


近藤が報われる日は果たして来るのだろうか。沖田は追い越して幸せになってしまった上司の縁先を思い苦笑した。






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