※吉原及び花魁、遊女に関する知識は皆無故、その点の矛盾はご了承ください。






結い上げた橙色から覗く艶やかな項。引かれた紅は色香を見せ付けるように赤く、白粉など不要であろう肌はやはりそのままに、闇夜を歩くは真紅の仕掛。

──見知った少女は、知らぬ間に常夜の蝶となっていた。




「痛いアル!放せヨ!」
「騒ぐんじゃねえや。下手に目立つな」
「っ……!」


見当たる物陰に腕を引き、沖田は神楽を古家の壁へと押さえ付けた。見下ろす姿はやはり目に毒。薄灯りを返す白肌に、全身の血液が沸き立つような感覚を覚える。


「……身請け金はいくらでィ」
「は?」
「旦那に捨てられた挙句、こんな処に売られたか?」


此方を睨む碧眼にはいつもと変わらぬ気丈さが宿っており、遊女の見せる媚びた色など微塵も無い。
まだこの場所の毒気には当てられていないようだ。内心で安堵するが、ざわめく心は尚も落ち着きを見せない。


「俺が買い戻してやらァ。……ああ勿論、旦那の許になんざ帰さねえから安心しろィ」
「何言ってるネ?」
「……ま、今はそんなことより」


露になっている首筋に口付ける。びくりと強張り身をよじる神楽の橙に指を通し、沖田は逃さないとでも言うように引き寄せ更に噛み付いた。乱れる髪は落ち沖田の手にさらりと掛かる。その微かな刺激さえもが沖田を興奮させた。


「まだ誰にも許してないよなァ?」
「何、を」
「てめえのは全部、何もかも俺が貰うことになってんでィ。勝手に他の野郎受け入れなんてしてみろ、承知しねえぜ」


ちゅ、ちゅと何度も吸い付く其処には薄らと赤い跡が付いている。時折舌で撫で上げると漏れる甘い声が、何とも言えず欲情を煽った。


「っや、な、なんか当たって」
「てめーがそんなやらしい恰好してるからでィ。……誘ってんだろ?」


盛った下半身を神楽に押し付け愉しげに囁く沖田。神楽は嫌悪感に顔を顰め、沖田の身体をこの状況下精一杯の力で押し退けた。


「キモイこと言ってんナ、ヨ……!」
「っと。」


二、三歩の間隔を後ろに取り背後の壁に凭れると、腕を組み小さく首を傾げる。不敵な笑みを浮かべた沖田は目を細めて神楽を見つめ、くつりと喉を鳴らした。


「なんでィ随分冷てえなァ?そのキレーな躯、何処ぞの野郎に穢されてねえか確かめてやろうとしてんのに」
「ふざけんナ!変な勘違いで襲われるなんて冗談じゃないアル!!」


神楽の絶叫に空気が沈黙する。
薄笑いを収めた沖田は目を見開き、少しの間を置き小さく声を発した。


「……勘違い?」
「そうアルばーか!ここに居たのは友達の所に遊びに行ったからアル!この着物はその友達が着せてくれて……、髪の毛だってそうネ!」
「吉原に友達だァ?なんだってそんな」
「っそれは!……しゅ、守秘義務ネ」
「……なんだそりゃ。」


表情を見るに嘘をついている様子ではない。つまりは本当に自分の勘違いだったという訳だ。
沖田は深く息を吐き出し、ばつの悪そうに頭を掻いた。


「…………」
「……なんだヨ」


しかし潤んだ瞳に上がった息、乱れた着衣にその下の白い肌──。
沖田総悟は己に正直な男であった。


「……まァ、でも」
「え」
「お巡りさんをムラムラさせたのは事実だからねィ」


首筋の独占欲を辿る指先。それよりも赤い唇を捕え、妖艶に微笑む沖田は移った紅を口元に運び少しかさついた自分のそこへと拭う。
舌なめずりを最後の合図に、神楽の視界は沖田によって完全占拠。


「現行犯逮捕。」


呼吸を奪われ未知の熱感を与えられ、最早神楽に為す術は無かった。




───────────────

潤子さまリクエスト
『花魁姿に変装神楽に暴走隊長』

大変遅れまして申し訳ございません。そして美味しいリクエストごちそうさまでした!微ほども裏っぽくなってくれませんでしたが、隊長のハァハァ具合が伝わっていればいいなあと願っております。
今後も隊長を変態に仕立て上げる活動は続けていきますので、期待していただければありがたいです。
リクエストありがとうございました。


2012.3.31