「オマエの髪色って美味しそうだよナ。鼈甲飴みたいアル」


普段自分から触れてくることなど無いその温度は知らない訳ではないにせよ高く、数年前までは“子供体温”などと馬鹿にしていたが今はもう子供呼ばわりは忍びない生意気な身体に育ってしまった神楽に沖田は言葉を詰まらせる。髪を撫でる手の温もりに、柄にも無く緊張しているのだ。


「おめーも中々旨そうだぜィ?その乳」
「激しくキモイ死ねヨ」


頭をはたかれ、勿論熱も遠ざかる。が、そう易々と離れられては困る。掴んだ手を引き寄せ、真正面から神楽を抱き締めた。


「……オイ」
「おうおう、そんなに身体押し付けてくるたぁよっぽど襲って欲しいみたいだなァ」
「押し付けてねーヨ。オマエがぎゅーぎゅーしてくるからダロ」


口では何かと言いながら抵抗は無い。諦めたように目を伏せた神楽の瞼に口付けを落とし、白肌を辿るように滑らせた唇で呼吸を一口に収める。暫し堪能した柔らかさを惜しみつつ、了承を得る為に合わせた視線に疑問を覚えた。


「……え、どーしたんですかィ神楽サン。なんで怒って」
「胸に手ぇ当ててよく考えろエロサド」
「へい。」
「何処触ってんじゃボケェェェ!!」
「ぐふぅっ」


神楽の胸を鷲掴んだ沖田は見事なアッパーにより天を仰ぎ倒れる。膝を抱え座り込む神楽は悲しげな表情を垣間見せた後顔を埋め口を閉ざしてしまい、部屋に流れるはなんとも言えぬ不穏な空気。


「……神楽?」


沖田は身体を起こすと、向けられた背中にぴたりと引っ付き覗き込むように神楽を窺う。一度へそを曲げてしまった神楽にはどんな言葉も意味を為さない。深く一息吐き出した沖田は神楽の腹に手を回すと、両足で逃げ道を断ち隙間も無い程に神楽を抱き寄せる。驚いたのか反射的に顔を上げた神楽、その真っ赤な頬に擦り寄り口付けた。


「何が気に喰わねえんですかィ、お嬢さん」


神楽の香りに興奮入り混じる穏々さを感じつつ問い掛ける。ふるふると震える神楽から伝わるのは、やはり怒りよりも羞恥。こんなにも意固地になっている原因は自分に対する拒絶ではない。では、何が神楽を悲しませているのか。


「……オマエ、すぐそーいうことしたがるネ」
「そーいう、って」
「言わせんナ!バカ」


肘が脇腹にめり込む。しかし今の沖田にその程度のダメージなどタンスの角に足の小指をぶつけるよりも微々たるものだった。恥じらう神楽が弩級に可愛らしいと、頭の悪い所感に内心悶絶していた。


「んー……、そりゃ、シたいからなァ」
「所詮オマエもボンキュッボンが好きなつまんねー男アルか」
「何言ってやがる。ぺたんこのときから構ってやってんだろうが」
「付き合う前はこんな風に触ったりなんかしなかったアル。でも、今はそればっかり目当てみたいネ」
「……神楽」


──沖田が神楽への気持ちに気付いたのは神楽がまだまだ少女であった頃。それから事を起こせず密かに育まれていった想いが、少女の名残は最早留めるだけにまで成長した神楽への焦燥に燻り、ついには溢れた。……それが結果的に、現在の誤解を生んでしまったのであろう。


「……ばーか。触りたくなんのは当然だろィ、……惚れてんだから」


口は達者だとよく言われる。だが、何分まだ理解の浅い愛についてをつらつらと囁ける程利口ではないのだ。


「言葉にしなきゃ伝わらねえかィ?」
「……そうじゃないネ。でも」


──それでも。


「言って欲しいヨ」


愛を教えてくれた恋人がそれを望むのなら、下手なりに甘い言葉を吐き出してみようではないか。


「……好きでィ」
「ウン」
「愛してまさァ、神楽」
「……ウン。ありがと、そーご」


神楽は腕の中、身体を反転させ沖田の胸に顔を埋める。笑顔のままに涙は輝き、小さく裾を握り込む手は神楽が己を必要としてくれているのだという事実を沖田に知らせた。


「大好きヨ」


愛おしい。
自分には彼女が、そして、彼女には自分が。
──もう、一人にはなれない。


「大好き、じゃ、足りねーなァ」
「っ!……う、あ」
「はい神楽サン、もう一回」


どんな運命論でも訳の解らない計算づくの法則でも構わない。
二人繋がる未来がそこに在るのなら、ただそれだけを信じ歩んでゆける。


「愛してるヨ、そーご」
「……上出来。」


夢物語では、終わらせない。




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りりんさまリクエスト
『原作未来で激甘』

力量不足により微妙な甘さになってしまいました大変申し訳ございません。
取り敢えずぐらたんがデレれば甘くなると思っていた自分が一番甘かったようです。
このような出来ですが、読んでいただけたならば幸いです。
リクエストありがとうございました。



2012.3.25