土+神(←沖)




「かぐらかぐら」
「なぁに、そーご」


好きだって言われて、どきどきしてる自分に気付いて、“こいびとどうし”になった。
沖田はサドじゃなくなって、触れる手には優しさしか見えない。


「神楽」


そんな沖田の所為カナ、私もすっかり女の子……──。




「な訳ねーヨ鳥肌が治まらないアルヨォォォ!!」


甘い空気に頬染めて、へにゃへにゃした微笑みを返す。……私には到底無理な所作だった。


「……だからって此処に来るんじゃねーよ」
「帰りたいけどほんとに帰るとあいつ面倒臭いんだモン。ここが一番近いネ、トイレだって言って避難してきたんダヨ」


付き合い始めてすぐの、恐らくはデートというものをしたときだ。あまりの変わり様に恐怖した私は沖田の目を盗んで万事屋へと逃亡を図った訳だが、その後かぶき町中をパトカーが駈け回った。真選組総動員、指揮は一番隊隊長、……つまりは沖田。知ってはいたがやはりあの男、頭がおかしい。



「ネ、ちょっとぐらい匿ってヨ。良いデショ?」
「とばっちり喰うなぁ遠慮してえところだ」
「私とトッシーの仲ダロ?ナ?」
「その言い方は止めてくれ。あいつに殺される」


マヨラーは心底嫌そうに顔を顰めるとしっしと私を追い払うような仕草をして書類に目を通し始める。……やっぱり大人は薄情アル。


「っ元はと言えばオマエが!優しくしてやってくれとか頼むから!」
「そりゃおめー、好き合ってんなら殴る蹴るの応酬はおかしいだろ。総悟にとっちゃあ身体的ダメージより精神的なそれのが応えるんだからよ」
「あいつがベタベタしてくるのが悪いアル!今まで喧嘩しかしてこなかったんだヨ、なのに急に……」


思い出すと恥ずかしくなってくる、“こいびと”沖田の優しいかお。妙に熱い顔を伏せて黙り込んだ私は、静まり返った空間の気まずさにただ畳の目を数えることしか出来なかった。
──変わらないと思っていた。
どんな関係になろうと、ふたりはふたりのままなんだと。元々近い距離に居て、それが心地好かった。もう喧嘩相手だった沖田は戻ってこないのか、……そう考えると、少し、寂しくて。


「解らなくもねえが、……拒否されてると思っちまうんじゃねえか、あいつは」
「トッシー……」
「お前はまだ慣れてねえだけだろ。その、なんだ、……恋愛、つうモンに」


自分には似合わない単語だという自覚はあるのか、わざとらしい咳払いが痛々しく映る。
いつもの吊り目はさらに細められて、でも、何故かそれが表情を柔らかく見せた。


「初めてなんだよ、総悟のあんな顔。言えば安く聞こえちまうかもしれねえが、……幸せそうだ、あいつは」


照れくさそうに頭を撫でられる。
やっぱりマヨラーは沖田に甘い。


「……分かったヨ。トッシーに免じて大人な私が我慢してやるアル」
「そら有難ぇこった」


呆れ顔で笑うから、にやりと笑い返してやった。此処も中々居心地がいい。


「神楽」
「……あ」


心臓が跳ねた。振り返ると、障子から顔を覗かせる沖田。その顔は部屋で見た笑顔のままだ。


「こんな処に居たのかィ。厠はもういいんで?」
「う、ウン」
「なら先に戻ってなせェ。菓子、用意してあるから」
「ウン……?」


マヨラーに用でもあるのだろうか。一緒に戻らないことを不思議に思いつつ、特に深くは考えずに沖田の横をすり抜ける。


「酢昆布あるカナ」


前向きに考えれば、あんな沖田も悪くないかもしれない。




「……土方さん」
「あ?さっさと愛しのチャイナ娘のとこに戻りゃいいだろ」
「言われなくてもそうしやすが、ちょいとお願いが」
「……なんだよ」
「今晩は俺の部屋に誰も近付けないよう頼みやす」
「あ゙ァ?」
「最近神楽も俺への警戒心が緩んできたんでねィ。部屋に上がったら何をされるかなんて気にも留めてやせんぜ」
「……は?」
「散々堪えた甲斐がありやした。今夜は楽しませて貰いまさァ」
「…………」




2012.3.13




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