「い、や、サド……」


小さな抵抗に軋む壁が耳障りな音を空間に虚しく響かせ、心に募るのは小さな喪失感。壊した関係に未練なんて、今更持っても意味が無いと言うのに。


「っん、ん」


縫い付けた腕がいつもの怪力を見せることは無く、噛み付いた唇から漏れる声がどうしようもなく欲情を煽った。


「っはァ……」
「なん、で、こんなっ」


こんなときでも強気な瞳に魅せられる。涙を湛えながらも俺を鋭く睨み付ける蒼。興奮はもう抑えられない。


「なんでィ、土方の野郎にはあんなに素直になれんのに、俺相手じゃ無理だってか?」
「何、言って」
「……もういい。まァ、わざわざ手前から勝負降りた奴を引き合いに出しても意味無ェか」


余計な言葉は要らない。とにかくお前を感じたいんだ。
狂気染みていると思われても構わない。
欲しくて、欲しくて、欲しくて。


「大人しく俺のモンになれ……」


縋るように口付けた。
何度も愛を囁いて、見えない檻に兎を囲う。


「神楽」
「さ、ど」
「好きだ」


絡めた指に力を込める。伝わるのは戸惑いに満ちた柔らかな熱。
ずっと求めていた。焦がれる程に。


「好きなんでさァ……」


掠れた声は悲痛に枯れる。目も当てられないぐらいに惨めなこの姿。


「沖田」


優しいお前は、哀れな俺を見捨てたり出来ないだろ?


「愛してる、神楽。愛してる」
「おきた」


なあ、愛してくれなんて言わないから、



「……泣かないで?」




傍に居てくれよ。




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土神沖『哀愁マゼンタ』続編
あみさまに捧げます。




2012.1.28