チャイナァ、甘味処行こうぜ。奢ってやらァ。

マジでか!あ、でも今日は早く帰って来いって銀ちゃんが。

……なんでィ、いつも旦那旦那って……。

サド?

……いや、なんでもねェ。

……ごめんネ?

っ!……今度、なら。……どうでィ。

おうヨ!約束アル!




「『というやり取りの末別れたんですが、どうも旦那は過保護すぎやしないですかねィ?チャイナももう餓鬼じゃないんでさァ、もっと自立した環境で俺と良い関係を築くべきだと思』……以下略。」
「……は?」
「O.S.君(公務員)からの被害報告だ」


吐き出す紫煙に見える疲労感。余計に細められた切れ長の眼が人相の悪さを倍増させていることに気付いているのかいないのか。
パフェを頬張りながら目の前の苦労人を憐れむも、どうやら自分も噛んでいるらしい話題に他人事と片付けるにはいかないことを悟る。


「……あのさ」
「なんだ」
「お宅は暇なの?」
「暇じゃねえ暇じゃねェよ?アイツの頭ン中が花畑なだけだ!!」
「そんな綺麗なモン、あの子の中には存在し得ないと思うけど」


最後のアイスクリームを掬い取る。すっかり綺麗になったパフェグラスを見、銀時は感嘆の溜息をひとつ落とした。それを見た土方はげえっと顔を顰めるも、自らのマヨネーズへの執着が同じような目で見られていることを彼は知らない。


「んで?俺にどうしろってんだよ」


肘を着き、欠伸と共に言葉を放つ。取り合いたくもない話題ではあるが、初めから巻き込まれているようなものであり無視を決め込んだところで被害を被らずには居られないことは明白。いざとなったらこの男を犠牲に逃げればいいのだ。


「……やっと総悟が素直になったんだ、余計な真似はすんなよ」


真面目な顔で何を言うかと思えば、部下の恋路を気にするなど平和なものだと鼻で笑う。


「余計な真似って……、俺は保護者としての責務を全うしてるだけだしィ?ハゲに殺されたくないしー」
「てんめっ……!今食ったモン誰の懐から出した金で頼んだか言ってみろ!!」
「市民の皆様の血税を非情にも搾り上げ贅の限りを尽くす悪徳役人の財布?」
「斬り捨てんぞテメェェェ!!」



土方の怒号は店内を駆け巡った。



******



「あーあ、誰かさんの所為でチョコパフェ食い損ねちまったじゃねーか」
「調子乗ってタカろうとしてんじゃねーぞ、恥を知れ」
「へーへー流石官吏様は心構えが違ってらっしゃる」
「……!!」


びきびきと青筋を立てる土方を興味無さげにあしらい、店を追い出されたことにより不機嫌な銀時は無表情に頭を掻く。
──正直に言うと、ここ最近の神楽と沖田の関係の変化に焦りを覚え始めていたのは確かで。

“サドが優しくなった”

そう言った神楽の頬が仄紅く染まっていることに気が付いたとき、銀時が愕然としたのは言うまでもない。


「おい」
「あ?あんなサド王子に神楽はやんねーぞ」
「……万事屋、お前」
「んだよなんか文句あっかアーン!?」
「涙目……」
「なってねーよ馬鹿じゃねえのォォォ!!!」


涙ぐんだ銀時とそれを気の毒そうに見遣りまた煙草を吹かす土方。
いい大人が往来で騒ぐこの光景、果たして誰が目を逸らさずに居ることが出来ようか。


「大体よォ、今まで散々神楽に暴言悪行の数々を尽くしといて今更なんですか?みたいなー」
「アレはアレだろ。気になる奴程、ってやつだろ」
「今時5歳児だってもっと器用にやるっての」
「総悟の精神年齢は恐ろしく低いんだから仕様が無ェんだよ!!」


土方がそう叫んだ刹那、「……へェ」と這うように低い声が両者の鼓膜を震わせた。銀時の余裕の笑みも消え去り、ぎこちなく振り向いた先には揺れる蜂蜜色。
眼球がひっくり返るかと思う程の勢いで目を剥いた二人を、沖田はにいっと不吉な笑顔で迎える。


「そ、総悟」
「旦那相手に何を熱弁奮ってんのかと思えば、俺の悪口ですかィ土方さん」
「いや、これは……!」


弁解に走ろうと張り上げた声は、黒衣の後ろからひょこりと顔を出した碧い瞳に吸い込まれた。


「チャイナァ、土方が旦那と一緒に俺を虐めまさァ」
「ふーん。もっと泣かされれば良いネ」
「……え」


──辛辣な言葉こそ変わらないが、神楽のその小さな手は沖田の裾を可愛らしく握り締めていた。
銀時はオーバーな動きで目を擦る。当然、そんなことをしても現実が変わる訳もなく。


「あ、ひっでーや傷付いた。お詫びにちゅーして下せェ」


神楽の手を包むように自らの手を重ね、神楽を見下ろす沖田。その顔は幼少からの彼を知る土方ですらも見たことの無い、奴の姉さえも知らなかったであろう弛みきった酷いものであった。


「嫌アル」
「口じゃなくても良いから。なァ」
「…………」
「チャイナ?」


甘えた声に頬が引き攣る。
多少神楽のガードが緩くなったからって調子乗んじゃねーぞドSコラ。……銀時の纏う空気が語るのを土方は聞いた。


「ねえ……、アレってそうじゃね?セクシャルなハラスメントじゃね?」
「ああ?チャイナ娘だってまんざらでもなさそうだろ、もう既にデキてんじゃねえのか」
「何処をどう見たらそんな考えに至るんですか馬鹿なんですかコノヤロー」
「んだとコラァ!!?」


親馬鹿ぶりに呆れる他ない。土方が沖田を案ずるが故に生まれたこの状況ではあるが、どうやら余計な真似は自分の方であったようだ。


「神楽ァ、帰るぞ」
「っおい!」


パフェの恩を忘れたのかと目配せすれば、鬼の如き眼力でそれどころではないと威圧される。土方は最早坂田銀時という人物が解らなくなった。元々飄々とした掴み所の無い男ではあったが、今の奴は娘を他の男から遠ざけることに躍起になっているただの駄目な父親だ。


「まだ早いネ。依頼アルか?」
「おー、そうだ」
「万事屋ァァァ!!」


銀時の明らかな嘘により事態は紛糾。どんどん下がる体感温度に土方は歯噛みした。


「むー、仕方無いア……」
「チャイナ。」


神楽の腕を引く強い力。
銀時の元へと足を向けていた神楽は振り返り、愛称とも言えぬその名を呼んだ人物を見上げる。


「約束、だろィ……?」


視線の先には眉を下げた沖田。
懇願するように揺れる瞳は、神楽のなけなしの良心を激しく締め上げた。


「う、あ」
「かぐ……」
「っそうアルな!約束アル!!」
「おい、かぐ」
「ごめんネ銀ちゃん!新八と二人で頑張ってくるヨロシ」
「え、あれ、……え?」


自然な流れで沖田の手を取り繋ぐ神楽に銀時は呆然、土方も呆気に取られたまま成り行きを見守ることしか出来なかった。


「……すいやせん旦那ァ。チャイナ借りて行きやす」


繋いだ手を一瞥しほくそ笑むと、先に駆け出した神楽に並び歩幅を合わせる沖田。二人を包む空気はまるで恋仲のもので、一種の腹立ちを覚えつつ寂しい男達はそれを見送るのだった。



「……なあ」
「どうした」
「……デキてんのかね、アレ」
「ああ……。安心しろ、総悟がチャイナ娘に『友達は手を繋ぐモンだ』とか教えたらしい。チャイナ娘のあの様子じゃあ、まだそんな段階だろう」
「あ、友達なんだ?もうそこには到達しちゃってんだ?」
「まあ、総悟だからな」
「……あれ、なんか視界が霞んで……」
「……無責任なことしやがったら俺があいつの介錯してやる」



そうは言いつつ沖田が生半尺な気持ちではないと知る土方は、その日は一生来ないであろうと思うも口には出せず呑み込んだ。傷口を抉るような真似は遠慮しておこう。



「……赤飯、炊くべきか」
「結構乗り気だな!!」



──地球のお父さんの心境は複雑であった。








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かなんさまリク
『沖神+保護者's』

お待たせしまして申し訳ございません!
しかも銀+土+(沖神)なテイストで…。ゴリラさんやジミーズも登場出来ず、銀土の会談ですね、コレ…!
副長が過保護すぎ、銀パパがへたれているなど、理想の保護者ズが見当たりませんが献上させて頂きます。

リクエストありがとうございました!



2012.1.2